第3話

「ご迷惑お掛けしました。本当にありがとうございます。わざわざ送ってもらって...」

「全然大丈夫ですよ、何かあったらお互い様ですっ」


申し訳なさそうな母とおおらかな真白母。


真白家で気絶した俺は花菜に家まで連れてもらった。


起きた時にはもう空は真っ暗になっていた。


「あ、育斗起きた?大丈夫?具合悪くない?夜ご飯食べる?」

「..........ん、大丈夫。食べる。」


並べられた食卓には子どもが食べやすいようなスープ、小さくカットされた肉や野菜がある。


俺はなんの気もなしに箸やスプーン、フォークなどが立てられた容器から小さな箸を取り出して、ゆっくりと肉とか野菜とかを咀嚼していった。


「...育斗、それ」


母が驚いたような顔でこちらを見ている。その手が指さす先には、俺の手元。


そうか。今までスプーンとかフォークとか使ってたからな。


「あの、真白ちゃんのお母さんに教えてもらって....」

「そうなの?今日のこともあるし、あとでたくさんお礼しなきゃいけなきわね」


とりあえず納得してもらったようで安心した。嘘だけど。


別に記憶が蘇ったからと言って生まれて来てからこれまでの記憶がなくなったわけじゃない。例えていうならデータ(記憶)を新しい機種(個体)に引き継いだ....加わったという感じだろうか。


だからこれまでの真白ちゃんとの逢瀬を忘れるわけでもない。



適当にご飯を済ませて、お風呂に入れられて、さすがに3歳児を1人で入れさせてくれないから母が同伴だったが、あれは、まあ、慣れるしかない、あと少しの辛抱だろう。


子供の睡眠は早い。気づいたら布団に入れられていた。電気も消して、あたりは真っ暗。


さて、これからどうしようか。

記憶が蘇ったからと言ってなにかしたい訳でもない。けれどもこれからも他の子達と同じように遊んで道化を演じたくもない。精神は既に大人なんだから。


気になっていた人はもう人妻。未練、そんなものもない。結局冷めていた。彼女のことが好きだったのも見た目だったり、そんなしょうもないものだろう。


果たして前の俺はどうなったのだろうか。気になるが俺に知る術はない。ここは前住んでいたところとは全然違かった。


本当になんでよりにもよってここに花菜がいるのか。それが不思議でならなかった。嫁に来たからってのはわかるんだけど。


俺のしたいこと。前世でやり残した事。いっぱいある。けどどれも中途半端。こっちの人生でまでやりたいわけでもなかった。


未練。未練か。


あっ。


一つだけ思い出した。


やり残して成し遂げられなかったものが。


明日から始めればきっと遅くない。


同じ道は歩まねど、同じことはするはずだから、意味が無い訳でもない。


よし、そうしよう


そんな思考をぐるぐると回していくうちに、俺の意識は深く、奥深くへと沈んで行った。


いつか、来るべきその時に、絶対に俺の力になる。

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