第43話 他人の激似
タクシーは南方にひた走っている様だった。それは太陽の位置で凡その見当は付いていた。 30分くらい走り続けたであろうか、と或る辺りで黒いタクシーは停車した。
「お客様、到着致しました」
「何処だよ、ここは」
「お客様はロマノフ王朝の観光がご要望でしたね。ご希望通り<終着駅>です」
「だから、何だよ!終着駅って!」
「言葉のそのままです。いってらっしゃいませ」
「何処へだよ!」
黒いタクシーの運転手は勇の座っている側のドアを開けてくれた。
「最後は親切なのか?おれを勝手に連れて行って」
「今回もお代は要りません」
「まったく、いいタクシーだな!」
「お褒めのお言葉、恐縮です」
「ふん!」
勇はタクシーを下車した。割と発展している街並みだ。タクシーを降りた先に喫茶店があった。<Romanov Story>とある。
「うーん、少し休むか」
リサの所在地探しで少々疲れたのその喫茶店で小休止を取ることにした。
カランコロンと入店を知らせる鈴が響く。現在は夕刻3:30過ぎ。にしては、少し店内が仄暗い。口ひげを蓄えた初老の男がカウンターに背を向けて立っていた。特に愛想もない。
店の中には他の客が無く、勇一人である。
「добро пожаловать」
来店の挨拶は若い女性の声だ。早速注文を取りに来た。勇はメニューを開いた。
「じゃぁ、これと」
顔を上げてその女性店員を見た時、体中に電流が流れた。
「り、リサ?」
しかし、その女性店員は不思議な顔をして勇の言わんとしている事が理解できないようだ。
「リサだろ?」
「Я ошибаюсь」
女性店員は答えた。がしかし、勇にはその女性店員がリサに激似すぎる。背丈、顔立ち、声など全く一致しているように思えた。だが、その女性店員は否定してる。
「おかしいなぁ、そんな筈はないのだが。間違いなくリサだ。それにこの店のマスターといい店の雰囲気といい、どこかで見たような気がする。でも女性は日本語を話してない。やはり人違いか?」
「すみません、やっぱり人違いの様です。すみません」
勇は女性店員に謝罪した。
「Ничего」
女性店員は、カウンター奥のマスターに勇の注文した「バラジャム付き紅茶」を告げた。カウンター越しから初老の男が振り返る。
「あれ?どっかでこの爺さん見たな?でもどこだっけなぁ。うーん、思い出せん」
勇は女性店員と店のマスターなる初老の男が気になってしょうがない。もどかしい思いを抱いたまま時は流れた。
勇が入店してからは他の客が来ない。まぁよくある事ではあるが、外の人通りを見る限り全く人がいない訳でもなく、逆にお客としての来店が一人もない事の方が疑問に思えて来た。
「う~ん、何かが変だ。変と言うより<不自然>と言った方がいいのか。しっくり来ない。狐につままれているようだ。そうだ、店名が<Romanov Story>と言うくらいなら、ロマノフ王朝の事やその末裔、はたまたリサの事も何か知っているかもしれない」
勇はいくつか質問してみることにした。
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