第42話 え?此処は一体どこ?
最後に来てリサの居場所が分からない。役所に来たものの不発。順調に来ただけに落胆の度合いは大きく、肩をがっくり落とした。
「どうすりゃいいのか。ここまで来たのに」
庁舎の前で項垂れていた。が、留まっても何も進展しない。
「折角ここまで来たのだ、何とかしてやる」
<年上の女房は金の草鞋を履いてまで探せ>とある様に、リサは年上では無いものの最愛の人を見つけるという事はやはり大変なのだろうか。
「ロマノフ王朝の歴史でも調べてみるか」
勇はロータリーでタクシーの順番待ちをしていた。ロシアでは黄色いタクシーが安全でいいらしいが、その他にも様々なものがあるみたいだ。勇を拾うタクシーは見慣れない「黒いタクシー」であった。
今の勇にはタクシーの色や安全性など、どうでもいい。何も考えず黒いタクシーに乗り込んだ。
「お客さん、どちらまで」
「ああ、新宿まで」
リサと日本でタクシーを乗った事を無意識にリフレインしたのか、思わず日本語が口を突いた。
「え、日本語?」
タクシーは徐に走り出した。
「あのー、日本語話せるんですか?」
恐る恐る運転手に聞いてみた。
「あ!お前!」
「いつもご乗車ありがとうございます。きひひ」
まさかのあの気味の悪いタクシー運転手が此処サンクトペテルブルクにまで出て来た。
「お前、何なんだよ!ってか何者だ!」
「私は至って普通のタクシー運転手ですよ」
「普通じゃねぇだろうが!しかも飛行機にもいただろ!CAの振りしやがって!」
「よくご存じで。これも<仕事>ですから。恐らく最後の<仕事>でしょう」
「仕事仕事って何だよ!訳わからんぞ!何処に連れて行くつもりだ!」
「<お客様の終着駅>ですよ、きひひ」
「気色わるいな、何時もお前は。終着駅って何処だよ!殺す気か!」
「いいえ、そんな事は間違っても御座いませんのでご安心を」
「お前らリサをどこに連れて行った!」
「お嬢様は安全にお過ごしです」
「当たり前だろ!死んでたらお前らぶち殺すからな」
「そりゃ物騒な。安心してください。私どもの大切なお嬢様ですから。きひひ」
「きひひ、じゃねぇんだよ!それ、やめろよ!」
「口癖でして。どうかご勘弁を」
「乗ってしまったらどうもこうも出来ん。流石に観念したよ。お前たちの勝ちだな」
「お客様、何か勘違いされているようです。最初から勝ちも負けも御座いませんよ」
「はぁ?強引に人を連れて帰っておいて何を言ってるんだ?大丈夫か?お前」
「ええ、問題ありませんよ」
タクシーは何処に向かっているのか分からないが、南方に向かっている様に思えた。日も西に傾きかけていた。
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