第40話 点と点が結ばれた時、何が起こる?

「おい、沖川!さっきの電話の話は本当か?」

日本領事館のインターホンすら無視して勇は扉越しで大声を上げた。

「はいはい、お待ちしていましたよ」

電話の時とは裏腹に沖川はやけに冷静に対応し、扉を開けて勇を迎い入れた。

「なんだ?やけに冷静だな。さっきは異常に興奮してたくせして」

「発見したのは何を隠そうとこの私。感謝してくださいよ、武藤さん」

「なんで上から目線なんだよ」

「そりゃそうですよ。武藤さんがお探しの女性のヒントを見つけたのはこの私、ですから」

「勿体ぶりやがって。その封筒の封蝋を見せて見ろ」

そう言うと、沖川は10年前の色の変わった封筒を持って来た。

「これがですねぇ」

「見せやがれ」

沖川が言ったか言わない内に勇はその封筒を取り上げた。そして封筒の上部の封蠟を照合した。

「確かに家紋だな。でもよく分かったな」

「そりゃ直ぐにピンと来ましたよ」

「嘘つけ。おまえはそんなに感がいい方ではない筈」

「そんな事在りませんよ。事実証拠もあるでしょ?ちゃんと調べて裏づけも取りましたし」

「まぁな。感謝するよ。しょうがねぇな、またボルシチ奢んなきゃいけねぇじゃねえか」

「至極当然です。しかも、」

「しかも何かあるのか?」

「それはボルシチを頂いてからですかね」

「何かムカつくな」

そう言うと、二人はいつも贔屓にしている例のバルへと向かった。

「よかったですね。ここ、サンクトペテルブルクに来た甲斐があったってもんですね」

「まだ手がかりじゃねぇか」

「そうは言いますが、もう手中に収めた様なものですよ」

そう言いながら例のバルに入店した。

何時も通りに何時ものボルシチを初老のマスターに2つ注文した。


「それより、<しかも>の続きだ」

「ああ、その件ですか」

「ムカつくな」

「いいんですか?<しかも>の続きは」

勇は黙り込んだ。

「分かりましたよ。後が怖いので話します。ひとつ伺っても良いですか?」

「なんだ」

「武藤さんのお探しの美人さんのお名前は何ですか?」

「何でお前に言わなきゃいけねぇんだ?」

「そりゃそうでしょうよ。お名前が分からなければ話の続きが出来ません」

「アナスタシアだが」

「お~!正解!」

「いちいちムカつくな、お前」

初老のマスターがボルシチを2つ運んできた。

「まずは腹ごしらえしましょうよ」

そういうと、沖川は勝手に追加注文し出した。

「おまえなぁ。仕方ねえな」

「で?」

「それがですね、これを見て下さい」

沖川は持参した封筒から少女のモンタージュの絵を取り出した。

「それは前に見たぞ」

「ですよね~。でも、裏を返すと」

卓上に置いたモンタージュの絵を裏にひっくり返した。

「ん?何か書いてあるな」

「何と!そこに少女の名前が書いてあります!」

「何だと!」


「 душевно друг1 Анастасия」

(親愛なるあなた アナスタシア)


「お、おい。アナスタシアって名前が同じだぞ!でかしたぞ!沖川!」

「でしょ?それを発見したのはこの私。ビール頼んでいいっすか?」

「いいわけないだろうが。調子に乗るな。って事はだ。10年前に俺が一緒に猫を探してあげた少女の名前はロマノフ家のアナスタシアって事になる」

「正解です。これでもう100%お会いできますね。そのアナスタシアさんと言う美人さんに。良かったですねぇ。ビール頼んでいいっすか?」

「だからダメだって言ってるのが分からんのか?」

「では、無事にアナスタシアさんを私の元へ連れて来た暁には3人でビールを飲みましょう!」

「仕方ない。だが感謝するよ、沖川。持つべきものは優秀な後輩だな」

「ですよねぇ」

沖川は自分が勝手に注文したものをペロリと消化した。

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