第38話 まさかの「当たり」
勇がここに来てから3日が経過していた。
10年前の領事館へと頻繁に足を運んだ少女の話を掘り下げる依頼を受けた沖川は当時の事を思い出そうとしていたものの、詳細までの記憶が薄かった。書面の記録が何か無いかと探し始めたが、詳細があるものまでは出て来なかった。しかし、勇と思しき人物の少女が描いたモンタージュが出て来た。
「しかしよく似ているな、武藤さんに」
少女の絵に感慨深く見入っていた。
「あれ?裏に何か書いてある」
そこには
「 душевно друг1 Анастасия」
(親愛なるあなた アナスタシア)
とある。しかもかなり小さい字だ。
「<親愛なる>か。あの子はアナスタシアというのか。武藤さんは女子供と老人には人気があったっけ。しかし、何か肝入りの文句だな」
確かに9,10歳の子供にしては中々意味深なものだ。
「他には何かないのかな?」
そのモンタージュの絵が入っていた封筒を逆さにして振ってみたが何か有る筈もない。
「そりゃ、何も無いか」
「ん?これは」
沖川はその封筒の<封蝋>をよく眺めて見た。封蝋は上下で二分されている。それを合わせてみた。
「家紋だな。下の方にアルファベットがあるぞ。もう劣化してよく見えんな。
う~ん、R、o、最後はvかな?何!まさか!Romanovか?」
沖川はPCでその封蝋の家紋を検索した。やはりその家紋はロマロフ家のものの様だ。
「おい、武藤さん。やったぜ!当たりだ!」
早速、武藤に電話をする沖川。他人事なのに興奮気味だ。
「も、もしもし、武藤さん?」
「何だよ、突然」
なぜか勇はキレ気味に応答した。
「か、家紋が」
「家紋が何だよ」
「だから家紋が」
「家紋がどうかしたのか?落ち着いて話せよ」
「い、いま書面の整理をしていたら」
「していたら?なんだ?」
「当時の勇さんのモンタージュの絵が出て来たんですよ。あの少女の」
「それで?家紋がどう関係するんだ?」
「封蝋ってあるじゃないですか」
「おお、西洋で封書にするやつな」
「それの家紋がロマノフ家のものなんですよ!」
「なに?!本当か?って事は10年前に俺を訪ねて来た少女がロマノフ家の娘ってことか?」
「恐らくそうです」
「でかした!沖川!ボルシチたらふく食わせてやる!今からそっちに行く」
「は、はい」
勇は一目散に領事館に向かった。
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