第41話 紅点の捜索

「だが、肝心のアナスタシアの居場所がわからん」

「そうですね。そこまではまだ行きついていませんね」

「沖川、何とか分からんか?優秀な後輩だよな?」

「ええ、そうですけど」

「じゃぁ、それも併せて調べて下さいよ。優秀な後輩さん」

沖川が一瞬むっとした。

「私も長年サンクトペテルブルクに住んでいますが、ロマノフ家の末裔が住んでいるなんて聞かないですけどね。意外と過去の帝政時の件で良く思わない人もいるせいでしょうかね」

「やっぱりそうなのか?」

「表だっては無いですが、やっぱり少なからず有るんじゃないでしょうか」

「うーむ、最後に来て大きな宿題があったな」

「そうですね」

食事が一通り終了し、二人は日本領事館方向へと戻って行く。その道すがら

「ああ、そうか」

沖川が何かを思いついた。

「何がだ?」

「簡単な事でしたよ。役所に問い合わせてみたらどうですか?名前で推して行って」

「お前、冴えてるなぁ」

「普通ですよ」

「ムカつくけど正解だな。早速役所に行ってみるか。ありがとう、沖川。恩に着るよ」

「いいんですよ、礼なんて。じゃぁ私は領事館に戻ります」

「ああ」


勇はサンクトペテルブルクの地区庁舎である「ウプラヴレニエ・デロプロイスヴォツトヴァ」を訪れた。役所には着いたものの、今の世の中「個人情報」と言うものが何より重要な時代である。領事館就任時は個人を特定するような案件も無かった。ここで「ロマノフ家末裔のアナスタシアさんの住所を教えて下さい」と訊いた所で、おいそれと役所の人間が答える筈もない。此処に来て難関が待っていた。

「うーん、もう出口かと思ったが」

勇は肩を落とした。

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