第36章 再度、サンクトペテルブルクの地を踏む

日本からロシアへ飛行機で9.5時間、モスクワから特急で3.5時間かけてサンクトペテルブルクのモスコーフスキー駅に降り立った。勇が一度赴任した約10年以前に比べ街の景観は然程変化していないようにも思えた。

街の造りはおおよそ覚えていたので迷う事は無かったが、到着はしたもののリサを見つける手立てがない。

「さて、どうするか。ノーヒントだな。この辺を全く知らないわけではないが取り敢えず領事館に行ってみるか」

地下鉄で中心街へと向かった。日本領事館はネヴァ川の畔に位置していた。

「ここに来るのも10年振りくらいか。懐かしいな」

感慨深げに辺りを見渡す。早速日本領事館のインターホンを押した。

「はい」

若い女性職員がロシア語で応答する。

「すみません、依然此方に勤務していた外務省の武藤と申します」

職員がドアを開けた。

「突然訪問致しましてすみません」

対応した職員に自分の名刺を差し出す。

「はぁ、外務省の方ですか。どうされましたか?」

「ええ、私用で此方に来て伺った次第でして。少々お尋ねしたい事が」

「何でしょうか」

「この辺にロマノフ家の建築物とかってありますかね?勤務していた頃は然程気にも留めていなかったので皆目見当がつかないもので」

「えーっと、そうですね。代表的なもので言えばエカテリーナ宮殿ですかね」

「あ、エカテリーナ宮殿ですか。存在は知ってましたが。そこには誰か住んでいるんですか?」

「宮殿は観光名所ですから、人は住んでいないと思いますよ。何でもロマノフ家の人間が夏にそこで過ごしたとか」

「そうですか。ちなみにロマノフ家の方が住んでる地区なんて分かりませんよね?」

「何だ、さっきから。ロマノフ家が何とかって」

奥から勇と同い年くらいの男性職員が現れた。

「あれ?武藤さん?」

「お~!沖川じゃないか!久しぶりだな」

「武藤さん、どうしたんですか?日本からはるばる」

沖川は武藤がここに赴任して時の後輩だ。当時、武藤がよく彼の世話をしていた。

「いやぁ、私用でな」

「私用?ですか?まぁ、玄関先では何ですから中に入ってください」

「悪いな」

勇は館内の応接室に通された。

「いやぁ、懐かしい。10年ぶりくらいだな。お前さんも元気そうで何より」

「武藤さんこそ。どうしたんですか?日本から私用って」

「まぁ、話すと長いから割愛させてもらうが、ある人を探している」

「人?どんな人です?」

「ある若い女性だ」

「へぇ~若い女性ねぇ。どんな関係なんです?」

「う~ん、それも長い話になるから割愛する」

「教えて下さいよ。確か先輩はまだご結婚」

「してねぇよ」

「やっぱりな。そんな気がしましたよ。外務省職員なのに人の世話ばかり焼いて。この辺の警察より困った人を面倒見てたんじゃないんですか?」

「まぁそれも仕事だからな」

「お人よし過ぎるからお嫁さんも居ないんでしょ?」

「うるさいな。相変わらずずけずけ言うな、お前」

「まぁいいじゃないですか。ってことは、その方がロマノフ家と関係があるんですね?」

「まぁな。ここでは何だから外で話さないか?時間は大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。日本と違うので。武藤さんだってそうだったでしょ?」

勇はぽりぽり頭を掻いた。

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