第35章 勇の決断

翌日の火曜日、仕事を終えた勇は、自宅に直帰しPCでモスクワ行便のチケットを予約した。リサの元へ行くことに決めたのだ。

「サンクトペテルブルクにリサが居る事、ロマノフ家の末裔である事という2つの手がかりしか無いが、行くだけ行ってみよう」

勇にとって人生の一大決心である。実際に再会できるかは全くの未知数であるものの、一度惚れてしまったのでは致し方ない。リサも自分に好意を持っているであろう事もその決意に少なかれ影響していた。

その週の土曜日、勇は羽田空港へと向かった。そして一路モスクワへと飛び立った。勇の乗っている飛行機はロシアのLCCである「R-Air」とかいう格安の便である。格安で予約が取れたので利用しているものの、聞きなれない航空会社である為に一抹の不安が隠し切れない。

離陸して暫くすると、ミールサービスがあった。CAが勇の横で配膳に現れた。

「ビーフオアチキン?」

と聞いて来たので

「Beef please」

と答えた。

「オーケー」

<ん?何だかCAにしては英語の発声がおかしくないか?しかも聞き覚えのある

声だ。それに>

CAの姿をよく見まわす。背丈は女性なのか低い。足元を見るとうっすら「お毛け」が確認できた。 牛肉を使った簡単な食事を配膳し終わると、「きひっ」と小さな声が漏れた。

<おい、これはもしや?あの?>

勇はわざと 「Water too」 と言ってみた。

「イエス」

と水を差し出した瞬間、勇はCAの腕を捕まえて、

「おまえ、あの怪しいタクシー運転手だな?」

「何のことでしょうか、きひっ」

やっぱりそうだ。またこいつが現れた。そのCAは慌てて勇の手を振り払い、そそくさと通路を去って行った。

<なんだよ。またあいつら絡みか?何なんだよ一体。格安チケットだから怪しいと思っていたが、まさかな。俺はどうなるんだ?最悪だ!>

勇みは食事に手を付けず、さっさと毛布を体に巻き付け目を閉じた。

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