第30章 水族館に行く
ふたりの胸中にはもはや黒服たちの存在が消えていた。京王井の頭線吉祥寺駅からJR渋谷駅から山手線を経由してJR大森駅へと向かった。約1時間で到着した。大森駅から水族館までは徒歩で向かう。
「意外と早かったな」
「そうですか?わたしにはよく分かりません」
「まぁそうだな。何十年振りだろうか、ここに来たのは。かなり変わったんだろうな」
「前の彼女と来て以来ですか?」
「ああ。いや、もうその頃の事は忘れたよ」
「そうですか。今度はわたしと来た思い出ができますね」
「そうなるかな」
「いい思い出にしましょう」
「そうだな」
そんな風におしゃべりしている内に水族館に到着した。流石に休日だと人出が多い。子供連れの親子が多い様だ。そんな雑踏をかき分けて入場券を購入する。
「大人2枚」
「2700円になります」
勇は財布から1000円札を3枚渡した。
「300円のお釣りになります。いってらっしゃいませ」
しながわ水族館は1Fの「海面フロア」とB1の「海底フロア」に分かれており、「海面フロア」にはイルカショーやペンギンを見る事ができる。また、「海底フロア」にはトンネル水槽などがある。
「わ~!観た事無い動物ばかりだわ!写真でしか見た事無い動物がいっぱい!」
リサは興奮を隠しきれない様子ではしゃいでいる。
「内部が当時とだいぶ変わったな。イルカショーなんてやってたかな?」
「いさみ、今は細かい事は無しよ」
「それもそうだな」
「あの黒い点のある動物は何ですか?」
「アザラシだな」
「愛らしいわ」
勇にとっては大して新鮮な事ではないが、喜んで質問攻めしているリサを見て眉を細めていた。
二人はペンギンとイルカショーを鑑賞し、B1に向かった。
「イルカやペンギンもかわいいですね」
「そうだな。久しぶりに観るといいもんだ」
「あんまり興味無いんですか?」
「いや、そうでは無いがこの歳になるとそれ程感動が無いな。歳とったもんだ。だけどリサ、」
「リサじゃありません。ナタシャです」
少し不満げに突っ込んできた。
「ああ、悪い悪い。そうだったな。ナタシャが喜んでくれればいいよ」
「すごく楽しいです」
ニコニコしながらリサは答えた。
「地下にはトンネルの水槽があるみたいだ。なんか、ドラマのロケで使われている様な感じがするけど」
「そうなんですか?楽しみです」
B1に下ると、直ぐに「トンネル水槽」が見えた。
「ああ、これがそうですね。綺麗ね」
リサは少しうっとりしながら上を見て感動している。勇はその姿を感慨深く見つめている。ロシアでは間違いなく無いのだろう。
「写真を撮りましょう」
「え、おれは苦手だなぁ。柄じゃないし」
「そんな事言わないでください」
リサは頬を膨らませて言った。
「写真をどなたかに撮ってもらいましょう」
そう言うと、適当に写真を撮ってくれそうないい人を探し始めた。なぜか、小柄の黒ずくめの男性に声を掛けた。
「すみません、写真撮っていただけますか?」
リサは丁寧に依頼した。先ずがこんな美人に頼まれて嫌がる人もいないだろうが。
その男性は首を縦に振り快諾した。リサはスマホを手渡した。
「上の水槽も含めて下さいね。2枚撮ってください」
男性は首を縦に振った。
「さぁ、早く!」
リサは勇の腕を引っ張って腕組みをした。
「おいおい、急に引っ張るなよ」
「さぁ撮りましょう」
男性は徐にシャッターを2回押した。
「どうもありがとうござ、」
リサがお礼を言う前にその男性はスマホをリサに渡すとそそくさとその場から立ち去ってしまった。
「忙しい方ね。まあいいわ。うまく取れているかしら」
スマホを確認すると、二人が映っている事は映ってるが肝心のトンネル水槽の取れ高が今一つだった。
「う~ん、もう一つですね」
「微妙だな。水槽部分が少ないな」
「私たちはしっかり撮れているから良しとしましょう」
「ああ、また来た時に撮ればいいよ」
カワウソやサメを観た後、二人は水族館を後にした。
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