第31章 ひょっとすると、また「あいつ」なのか?

二人が水族館を出た時は丁度夕方4時頃だった。日が傾きかけている。帰り支度の人たちもいる様だ。

「楽しかったわね」

「まぁな」

「あら、そっけない返事ね。わたしと一緒じゃご不満かしら?」

「そんな事は無い。リサ、いやナスチャが楽しければそれはそれでいい」

「何かわたし次第って感じね。嫌な感じだわ」

「正直、懐かしい感じがしたんだよ」

「また前の彼女の話?やめてよ。大事なのは今でしょ?」

「そうだな。わるい」

そう話しながら水族館前の広場を通り過ぎようとした時、ふと目を引くものがあった。

「あれ、何かしら?」

よく見ると記念写真を撮る出店の様だ。隣には名所等によくある顔出し写真のセットが立っている。

「トンネル水槽でうまく写真撮ってもらえなかったから写真撮り直しましょうよ」

「え?俺は写真は苦手なんだよ」

「でも立派な記念よ。わたしにはね。あなたにもそうなるわ」

「まぁ、そうだが」

「いいじゃない。お願い」

渋々その記念写真を撮ることにした。出店には写真1枚1000円とある。しかもそのボードにはよく分からない「しなちゃん」なるゆるキャラが書いてあり、その顔にハマる様だ。

「おい、1枚1000円って高くないか?」

「いいじゃない。記念なんだから。今度は私がお金を払うわ」

「そういう問題では」

リサはそう言うか言わないかにも関わらず、写真を撮る為その記念写真ボードに駆け足で近づいて行った。そこには店番の男が居た。

「すみません、1枚お願いできますか?」

店番の男は黙って記念ボードを指さした。勇はまだそぶいたままだ。

「早く来てよ。恥ずかしいじゃない」

とリサは手招きしている。勇は渋々記念写真ボードへ近づいた。と同時に何かしらの違和感を覚えた。

<あれ?この店番の男、館内で写真を撮ってくれた男じゃないのか?>

「もう、早くしてよね」

リサは記念写真ボードに早速顔を突っ込んでいる。

「ああ、しょうがないな」

勇が顔をボードに入れた瞬間、二人は後ろから誰かに摑まれてしまった。顔がボードに入っているので身動きが取れない。しかも、掴んでいるのはどんな輩か不明である。脳裏には追跡されている黒服たちが浮かんでいた。

「きゃぁ!」

リサの悲鳴が辺りに響き渡る。リサも勇と同じ事態になってしまっている様だ。

「何すんだ!この野郎!」

「いひひ、またお会いしましたね」

「やっぱりお前か!写真撮った黒づくめ野郎だな!」

ボードに顔を突っ込んだ2人は誠に情けない姿で、しかも身動きできないでいる。

「てか、お前、変なタクシー運転手だろ!」

「やかましいですね。変は余計です。今回も写真のお代は頂きません。これが私の【仕事】ですから」

「仕事、仕事って訳わからねぇんだよ!このちび黒服野郎が!」

「貴方には少し黙っていただきます」

店番の男、否、変なタクシー運転手は勇の口元に布テープをぐるぐる貼りだした。

「へへへ」

勇はテープを巻かれてぐふぁぐふぁ言ってるが言葉にならない。しかも後ろで両腕も縛られた。片やリサは口封じや縛られたりはしていない。

「では、行くとしますか。皆様」

「何処へよ!」

「羽田です」

「羽田?ま、まさか」

「はい。そのまさかです。お嬢様。そろそろ帰りましょう」

二人を拘束している黒服はボードから顔を外すと、近場に停めてあるタクシーに連行した。黒服は一緒に乗り込み、変な運転手は車を出そうとしている。

「いや!放して!」

リサの悲鳴が楽しかった水族館周辺に響き渡る。タクシーはその場から動き始めた。

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