第23章 現状の詳細

「爺や、悪いが適当に食べ物を頂戴」

「かしこまりました」

爺やは厨房へと消えて行った。

二人の話題は現状についてに移っている。

「で、あの黒服どもに追われているということだな?」

「そういう事です。だから私をどこかに連れて行って欲しいんです」

「どこかって、急に言われてもなぁ。うーん、参ったな」

「貴方の家はどこですか?」

「吉祥寺だが」

「そこはここから遠いんですか?」

「いや、そうでもないが。新宿から中央線という電車で2,30分ってとこか」

「じゃぁ、連れて行ってください」

「そ、それは構わんが。いいのか?」

「いいです」

「この喫茶店じゃだめなのか?爺やも居るし、その方がいいんじゃないのか?」

「ここにはその内やつらが来ます。だから」

「うーん、仕方ない。そうするか」

「ありがとうございます。お願いします」


「ビーフストロガノフとボルシチです」

爺やが食事を給仕した。

「爺やの料理おいしいですよ。ありがとう、爺や」

「いえいえ」

「腹もペコペコだ。そういえばそもそも飯を食いに来たんだったな、新宿に」

「そうでしたね」

ふたりは爺や特製の料理を頬張る。

「そう言えばおまえさんはロシアのどこに住んでるんだっけ?」

「サンクトペテルブルクです。あの、おまえさんはやめてください」

「わるいわるい、わかったよ。じゃぁ何て呼べばいいんだ?

「一般的にはナスチャです」

「わかった。そう呼ぶよ。サンクトペテルブルクは俺が昔赴任してたところだな」

「お店で話しませんでしたっけ?」

「あれ?そうだっけ?ごめん、忘れてたよ。それでそこで幽閉されてたんだな」

「なんですか?ゆうへいって」

「まぁ、閉じ込められてたってことだな。名家の末裔ならそりゃ贅沢なんだろ?何事も。メイドとかいるのか?」

「いいえ、いません。外出時は素性が分からないように町の人たちに紛れて暮らしていました」

「そうか。そういうのも大変だ。俺らには分からん悩みだな」

リサはこくりと頷く。

<しかし、こんな美人で若い外国の子が俺の家に来るのか?いいや、あり得ん。下手に手でも出したらそれこそ銃か何かで殺されるな。だがまぁ仕方ない。乗り掛かった舟だ。腹を決めるか>

勇は何もなかったかの様に、爺やの「ボルシチ」をすすっていた。

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