第22章 身の上話の詳細
「クリームソーダとビールです」
爺やがトレイに二人の飲み物を運んできた。リサのクリームソーダが置かれるや否や、
「おお、バルチカビール!ロシアに行って以来だ!懐かしいな」
「よくご存じで。その通りです」
爺やはにこりとしてビールを卓上に置いた。勇は早速バルチカビールをごくごく飲みだした。リサと爺やはポカーンとしている。
「乾杯ではないけど、貴方飲むのが早すぎるわ!」
リサは少し怒りながら言った。
「いや、悪い悪い。喉がカラカラで」
二人はお互いの顔を見あって呆れていた。
「わたしがロマロフ王朝の末裔であるって事はお話しましたよね?」
「ああ、大体ね」
「改めまして。私の名前は『アナスタシア・アレクサンドリア・ロマノフ』と言います。前にもいましたが、ロシアのロマノフ王朝の末裔です。アレクサンドル1世からの流れを汲んでいます。年齢は19歳です」
「ご丁寧にありがとう。俺は武藤勇。年齢は49歳、独身。しがない外務省職員だ。ロシアに一時期滞在した事がある。あれ?なんか変だな」
「ええ」
リサは少し笑っている。
「まあいい。で、なぜ日本に来たんだ?」
「ロマノフ王朝の事はご存じですね?」
「ああ」
「ロシアでは未だにロマノフ一族をよく思っていない人たちがいるんです。過去の帝政時代の事件とかのことで」
「ほうほう。それは血の土曜日の事件とかだろ?」
「はい。そのせいで私は産まれてからずっと、ある所に住まわされて24時間監視されていたんです。流石に大きくなるにつれて退屈になりました。それで日本に居る爺やの協力で日本に逃げて来たんです」
「ふむふむ。ある意味『脱走』、いや『亡命』か?」
「そうなりますか」
「日本にいつ来たんだ?」
「今日です」
「え?きっ、今日?」
「そうです」
勇は腰を抜かしそうになった。
「おいおい、今日来てキャバクラ嬢か?なかなかのスケジュールだな」
「私は日本の事はほとんどわかりません。飛行機を降りて、成田空港のロビーであの店のママさんと出会ったんです。事情を話したら店で働けばいいと言われてそのままあの店に行きました」
「ほほぅ、何と言う因縁。そんな事あるんだな」
「ええ、そのおかげで助かりました」
「お話したらおなかが減りました。何か食べましょう」
勇は頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます