第19話 包囲網
二人を乗せたタクシーは四谷に差し掛かっている。リサが「ロシア帝国君主の末裔」であることが「人目を避けている」という事態になる事実を勇にはまだ受け入れられていない。
「で、そう言う立場なら日本で大手を振って暮らせんのか?もう21世紀だぞ」
「貴方には分かりません。その意味合いがです」
「意味合い?」
「系譜というものは消したくても消せませんし、そこから逃れる事は出来ません。それは運命なのです」
「まぁそうだな」
「いくら時代が過ぎようとも忘れられない事ってあるでしょう?わたしはそこから逃げて来ましたが、やっぱり難しいですね」
「ん?言ってる意味がよく分からんな」
「色々説明しないといけないので、それはまた後でいいですか?」
「別に構わんが」
そう言うと、リサは再びさっきの歌を口ずさみながらガラス越しの流れる景色を眺めている。 暫くしてタクシー運転手が備え付けの無線機を徐に取り出した。何やら誰かに連絡している様だ。その内容は声が小さくて勇にも聞き取れない。
「お客さん、着きましたよ」
そこはどう見ても新宿駅東口ではない。
「おい、ここの何処が東口なんだ?まだ先だろ?」
「いいえ、ここがあなた達の新宿駅東口、終着点ですよ」
運転手はにやにやしながら後部座席の自動ドアを開けた。
「お代は結構です。後から頂きますから」
勇には運転手が言ってる言葉の意味が分からないが、運転手が車を出さない限り前に進まない。
「仕方がない」
二人はタクシーを降りた。と同時に黒服の外人が3人こちらに駆けてくる。
「逃げて!」
リサは勇の手を引いて宛もなく走り出した。
「おいおい、どうなってるんだ?」
「理由はあとで」
どうやらこの辺は新宿御苑の近くらしい。夜なので昼間の景色と結構違うので現時点が何処かはよく分からない。 勇はリサの行こうとする場所に行く以外に選択肢は無かった。
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