第17話 「リサ」という事情

何故外の風に当たるのが【久しぶり】なのか?勇はその事ばかりが気になっていた。

<風に当たるくらい普通だろ?別にどうってことでも無い。それなのに久しぶりってどういうことだ?>

直接その事を聞くとリサの口からもう真実が聞けないと思った勇は、敢えてそこは触れないことにした。そしてこれを最後の質問にしようと決めた。車内でもなるべく余計な事は言わない事にした。その為か、勇にはいつもより時間が遅く過ぎるように感じていた。

一方、リサは虎ノ門を離れると何だか解放されたような雰囲気だった。機嫌も直ったようだ。窓を閉めると鼻歌まで出て来た。

「おい、ご機嫌だな」

リサの鼻歌は「神よツァーリを護り給え」という曲だった。ロシア帝政下の国歌であるが、この時点では勇はその詳細を知らない。

リサはさっき閉めたガラス窓から外を眺めながらその鼻歌を歌っている。タクシーは只管新宿に向かって進んでいる。

「ウニクロで外国人から避けようとしてたのは何か理由でもあるのか?そう言えばあの付近に外国人がいつもより多い気がしたが」

リサは黙って外を見つめて鼻歌を歌っている。

「おい、聞いてんのか?少しは俺の質問に」

「わたしの事知ってしまうと、もう逢えなくなりますよ。それでも良ければお話します」

勇は思わず固唾を飲んだ。

<何?どういうことだ?身元がわかるとまずいのか?あぁ、そうか。だから外務省職員の俺に近づいたんだな>

冷静を装いながら勇は口を開いた。

「それはどういうことだ?詳しく話してくれないか。仮にその話を聞いてお前さんと逢えなくなっても俺は構わんが」

勇はリサにはったりを掛けた。若干リサは驚いたが、

「そうですか。わかりました。お話します」

タクシー運転手はバックミラーを見ながらにやにやしている。

「わたしはロマノフ家の最後の末裔なんです。ロシアに行った事のある貴方なら事情は少しくらいお解りでしょう?」

「あ、ああ。多少はな。しかし、詳しい事は解らん」

リサは重い口を開き始めた。

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