第15話 密談(2)
「あ、そういえば」
ホテルを飛び出すなり勇は呟いた。
「そういえば、ママに電話しないとな」
スマホを取り出してリサの勤務先「Club Passage of Life」に電話する。7コール目に電話が繋がった。
「はい、Club Passage of Lifeです」
電話越しに、わいわい騒いでいるおやじどもや女性たちの会話が雑音の様に聞こえてくる。
「ああ、PM6:30の男こと、武藤だが」
自分で言うか?と思われるが、こういうお店に自分が某かを伝えるのは顧客数が多いため案外難しい。
「はいはい、いつも御贔屓に。どうせりんちゃんでしょ?」
電話を受けたのはママだった。
「いや、ママに用事なんだ」
「なに?よく聞こえないわ。夜の約束ならもう埋まってるわよ」
「いや、そうじゃなくて」
ママはリサの一件を知らないようだ。
「じゃぁ、りんは居る?」
「ええ、でも今接客中よ」
「そうか。そこを何とか電話に出してくれないか?」
「しょうがないわね。そんなにりんにぞっこんなのね?わかったわ」
「い、いや」
言い訳を言う前に、ママはりんを電話に呼び出した。この店のキャストは人の話をあまり聞かないらしい。外人さんだからか。暫くしてりんが電話口に出た。
「ハーイ、マイダーリン。珍しいじゃない。どうかしたの?店に電話なんて」
「おいおい、どうかした?じゃないだろ」
「なにがよ。なんかあったかしら?」
「まあいい。構ってられん!いま今日入ったばっかりのリサと一緒にいるんだが」
「え~!一緒にいるの?わたしを差し置いて?悲しいわぁ、マイダーリン」
勇の話の真剣さが彼女たちには伝わらないようだ。
「お前、かなり酔ってるな?今リサといるんだが問題ないかって言ってんだよ!」
「なんの問題?うるさくてよく聞こえないわ。どうせ来週も来るんでしょ?その時詳しく聞くわ。いま忙しいのよ、マイダーリン。じゃぁね~ガチャ」
「はぁ?」
勇は自分の伝えようとした話が全く通じていない事に落胆して電話を切った。
「どうでした?」
「第一、出勤初日のキャストが店からいなくなっているっていうのに心配するとか全く無いとはな。信じられん」
「そういう事はよくあるのですか?」
「詳しく知らんが、よくある事だったらそれはそれで問題だな。まぁ義理立てはしたからいいだろう。あっちもあんまり考えていないようだし」
歩きながらリサに告げた。ふたりはどこと決めることなく再び夜の都心に消えていった。
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