第13話 仮住まいへの帰路

 勇はウニクロのセルフレジで会計を済ませる。リサはそこから少し離れて佇んでいる。大方の客はその美貌は視線を投げながら店内に入って来る。

「会計を済ませたら服を着て帰りたいんだが」

「承知いたしました。ではタグをお取りしますね」

  店員は手慣れた感じでタグを取り外し、

「お待たせいたしました」

 と購入済みにワンピースと白のスニーカーを勇に差し出した。

「こいつを着て帰ろう」

 そう言うとリサは頷き、再度フィッティングルームに入った。着替えを待ちながら勇はふと店内の壁掛け時計を見遣った。ホテルを出てから既に40分は経過している。

「ヤバい、歩きじゃ一時間で帰れんな」

 ぽつりと口に出すとリサが服を着て出て来た。

「おい、急ぐぞ」

 着替えたばかりのリサの手を無意識にぎゅっと握り、地上へと駆け足で向かう。

「いたい」

「ああ、悪い。だがカカ様の待つあの部屋へ早く戻らんと」

 荒い息をしながらリサに伝える。

「なぜですか?」

リサの息も上がり気味だ。

「60分以内に帰らないとあまり宜しくないんだ」

「はぁ」

 リサにはあまり沁みない様だったが、急いでる事には間違いないと悟った。地上に出て客待ちしているタクシーに飛び乗る。

「虎ノ門の第三ホテル東京まで」

「あいよ」

 タクシー運転手は軽い相槌を打つ。バックミラーでリサを見て、その美貌に少し驚いたようだ。タクシーは早速虎ノ門へと走り出した。

「ふぅ」

 二人は一息ついた。暫く沈黙が続いた。

「ご迷惑をおかけしました」

「いや、いいんだ。雨の中定期を持ってきてくれたんだから」

 リサはこくりと頷いた。

「その姫さまはロシアかどっかの方かい?」

 徐に運転手は質問してきた。

「ああ、そうだが何故だ?」

「いやぁね、最近この辺でやけに白人の方を多く見かけるもんでね」

「そうなのか?」

「ええ、時間を問わず多いみたいなんだがね。あんたたちもそのクチかい?」

「関係はないな」

「そうでしたか。それは失敬」

 リサは右側の車窓を無関係を装い呆然と眺めている。


 数分後、タクシーはホテルの前に到着した。勇は腕時計とにらめっこすると

「釣りはいらんから」

 そう言ってタクシーから降り、リサの手を引いてホテルのロビーへと駆け寄り早速

「レディ・カカ様」の待つ「1201」室へと向かう。

「悪いな、急がせて」

「構いませんよ」

 慌ててホテルに戻ると、中々下に降りて来ないエレベーターを待ちながら言葉を交わす。再度腕時計を見遣ると、重厚な扉が開いた。

「行こう」

 勇はリサの手を握りながらエレベーターの乗り込んだ。密閉したその匣は二人を乗せて最上階まで上昇していった。

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