第7話 雨宿り(2)

勇はカードキー片手にエレベータの降下してくる階数ランプを何とはなしに見上げている。暫くすると、エレベータの重厚な扉がすっと左右の開いた。自然と勇はリサの肩に手を廻してエスコートするようになっていた。

「行こうか」

リサは無言で頷いた後、二人はエレベータの匣の中に納まった。濡れた深紅のドレスの裾は雨で重くなって引きずられている。

勇は入って左側の昇降階数のボタン「12」をカードキーの角で押した。階数ボタンが白色に点灯する。エレベータは上昇し始めた。勇はリサの肩を抱えたままだ。が、勇は自分の心拍数が自然と高まっていくのを感じていた。リサの震えは若干収まって来ている様だった。

「少しは温かくなったか?」

「ええ」

虫の鳴く声でリサが答えた。

「聞きたいことがあるんだが、お前さんの体調が良くなったらにするよ」

「どんな事ですか?」

リサは少しびっくりした様子で聞き返した。

「まぁ、色々と」

ふと見上げると、エレベータの昇降ランプは「11」を指したあと「12」で止まった。

「チーン」

エレベータの扉が開いた。勇は先程よりリサの肩を強めに抱いてエレベータを降りた。

「1201か」

左手でカードキーを団扇のように仰ぎながら呟く。勇はリサの肩が若干温度が上がっていることを感じていた。

「お、あったぞ。1201!」

廊下の一番奥の、左側に1201室はあった。勇の言い方が少し子供じみたテンションだった。リサの口角が若干上がっていた。

1201室のドアノブにカードキーを翳すと、「ピッ」という音で開錠された。棒状のドアノブを下げて部屋に入る。

「ほぅ、流石にスゥイートルームだな。中々のゴージャスぶりではないか。普段だったら絶対使わんがな」

またもはしゃいで高級客室を駆け回る。

「子供みたいですね」

「だって、滅多にないぜ。こんな事は。出張では間違いなく有り得ないな」

「そうですね。私もそう思います」

リサにも応対するだけの元気が戻って来た様だった。


「さては、と。まずはお前さんの服だが」

勇は背もたれがの大きいふわふわのチェアに座り顎を摩りながら言った。

「新しいものがまずは必要だ。で、どうするか。答えは二つに一つ。俺が見繕って買って来るか、または?」

「または?何ですか?」

「お前さんがおれのスーツを着て自分好みの服を買って来るか。だが、残念ながらおれの身長のスーツではお前さんが着るのは無理だ。だから、おれが見繕って服を買って来るしかない」

リサはこくりと申し訳なさそうに頷いた。

「しかしながら、何とかなる方法がある」

「それは女性をもう一人呼ぶサービスを使えばいい」

「どういうこと?」

「英語ではコールガール。日本ではデリヘル嬢。微妙に違うがな」

「そういう人を呼んでどうするんですか?」

「お前さんの身長は170cmくらいだろ?だから似た様な体格をした女性をこの部屋に呼ぶ」

「その女性が来たら、服を交換して一時的に彼女の洋服を借用する」

「その服で外に出ておれと服を買いに行けばいいって寸法だ」

「すごい!」

リサの顔に笑みがこぼれた。

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