第5話 抜け駆け
二人は暫くコンビニの軒下で雨宿りをしている。雨は相変わらず結構な具合で地面を叩き続けている。勇は右手にリサの食べているおでんの食器を持ちながら、左手でリサの頭を傘で覆っている。リサはおでんをふうふう言いながら食している。
「どうだ、少しは暖まったか?」
リサは無言で頷く。おでんが自分の食指にあっているのか、勇が適当に買ったおでんの具を全て平らげた。ふぅと自然と息を吐く。出汁も呑み切った。勇は空になったおでんの容器と割り箸をゴミ箱に片手で放り投げた。
「ママに連絡しないとな」
勇が携帯を取り出すと両手で覆いかぶせた。
「おい、何するんだ。お前さんは初出勤の日だろ?連絡しないとまずいんじゃないか?」
「そんな事はありません」
「そんな事在るだろう」
「いいです。明日ママに話します」
「いいのか?それで」
「いいです」
「じゃぁどうする?これから」
「・・・」
リサは黙り込んだ。おでんを食べたくらいでは完全に身体が暖まる訳もなく、小刻みに震えている。
「じゃぁ、何処かで暖まろう」
リサはコクリと首を縦に振った。
二人は何処へ行くともなくコンビニを後にした。一つの傘をリサと共有している事が勇にとっては何だか不思議に思えた。自分はリサとは初見で、彼女は日本に来たばかり。しかも誰もが振り返る様なスレンダー美人。そして、自分がどんな人間かも知らぬまま忘れた定期券を雨の中にも関わらず持って来てくれている。どう考えても不思議だ。
「この近くのホテルで暖を取ろう。決して変な意味ではないから」
リサの反応は無い様だ。と言う事は黙認であると勇は解釈した。
コンビニから5分くらい歩くとメトロ「虎ノ門」駅の入り口に到着した。近くに「第三ホテル東京」が見える。
「ここで暖をとろう」
リサに反応はなく、ただ単に勇に寄りかかっているだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます