第2話 話の始まり

 その1週間後、勇は例のごとく木曜日に例のClubに顔を出した。何時もの様に左奥のソファに飛び込んでりんを指名する。

 「ねぇ勇さん、今日はビッグニュースがあるの」

 「なんだよ、それ。どうせ大したことじゃないんだろ?ペットの犬が子供でも産んだのか?」

 「残念。ちなみに犬は飼っていないわ」

「じゃぁ、なんだよ?」

 「どうしようかなぁ、教えようかなぁ」

 「勿体ぶるなよ」

 「わかった!じゃあ教えるわね」

 「ああ」

 「なんと本日、久々に新人キャストが入店しましたぁ!」

 「それで?それがビッグニュースなのかよ」

 「そうよ。ニュースじゃない。しかもすごいわよ、今回は」

  りんは奥の黒幕に向かって、

 「リサ、この常連さんが御指名よ!」

 「いやいや、指名してない、、、」

 勇が言葉を最後まで言い終わらないうちに、と言うかすぐに絶句した。「リサ」なる新人キャストが先程の黒幕から姿を現した。彼女はスタイル抜群、色白で長身かつグラマー、奥の黒幕がアンシンメトリー的にそれを引き立てる。赤いカクテルドレスを身に纏って真白な肌色に映えている。言うまでもなく外国人特有の彫りの深い美顔。正に非の打ち処が無い。

 「初めまして。リサです。宜しくお願いします」

 「あ、ああ、宜しく」

勇はあっけに取られている。

 「どう、驚いた?」

 「驚いたも何も、ねぇ」

  勇は何気にリサに話を振る。リサはニコりと愛想笑いする。

 「って事は、勇さんはリサの指名第一号ね!やったわね!」

 「はい、光栄なことですな。俺ごときで悪いね」

 「そんな事無いです。まだ日本語うまくないので教えてください」

 「俺で良ければどうぞ」

  勇は俯きながらグラスのウイスキーを呑み込んだ。

 <まさかこんな上玉がいるとはな>

 独り言を悟られない様に口にする。

 「リサの出身は何処だっけ?」りんが話を振る。

 「ロシアです」

 「色白だもんね」

 「はい。でも私は色白あまり好きではないです」

 「どうして?」

 「ひ弱に見えるので、色の黒い方に憧れます」

 「出たな、必殺技<無いものねだり>!」

 「まぁ、人間そんなもんだよ」

 「勇さんも結構色黒いわね。なんかしているの?」

 「あ、俺?別に。ってか俺の国籍知ってる?」

 「え、日本でしょ?違うの?」

 「パプアニューギニア」

 「嘘っ!」

美女二人の叫喚がシンクロして思わず両手で口を塞いだ。

「ばかだな、冗談に決まってるじゃないか」

「やだぁ」

 女性を落とす外務省職員の掴みなのか、りんが笑いながら軽い肩撫でボディタッチ繰り出す。女性が恥ずかしいときにする仕草だ。

 「面白い方なのですね」

リサは多少堅苦しい文体で応対した。

 「そうなのよ。この方、こう見えて外務省の方なのよ」

 「そうなのですか」

  何かしらの含みを残してリサは返答した。勇はグラスのウイスキーを直ぐに飲み干した。

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