第5話 『聖女』と礼儀

 社交界を比較的嫌う私だが、誠に遺憾ながら、先輩方の卒業パーティーに出席することになった。

 いや、これは私が王族の婚約者だからに他ならない。義務とか最悪すぎる。崩壊しないかな貴族社会。

 とはいえ絶対王政の敷かれているような悪国ではないし、騎士団とて国民に負けぬよう訓練を受けている。革命はほぼありえないと言って過言ではないだろう。

 とはいえ数では負けているのだ。今から武器を流して唆せばクーデター行けるんじゃない? まあ失敗した時のリスクが高すぎるしそもそも武器なんて女の私には買えない代物だけど。

 退屈を持て余している私は思考に身を浸しながら、時には身に付いた礼儀作法で形だけの挨拶をして──正直なことを言うと食事を楽しみたかったけどそんなことを言えるほどの暇はなかった。

 こんな事がもう一年あることに辟易としながら、私は婚約者の横で笑顔の仮面を貼り付けている。こうしてるのも、いつの間にかなれてたのよね……。


『ベリスさん!』


 そんな中でも、『聖女』である杏は元気に私の方へと向かってくる。そういえばこの子、毎度毎度違うドレスに身を包んでる気がするわ……私への当て付けか。取り敢えず、今は貴族としての礼儀を重んじましょう。


『ごきげんよう杏さん。そのドレスも素敵ね』

『ありがとうございます! これ、ベリスさんに見せたかったドレスなんです!』

『そうなの……』


 そりゃあ似合ってますけどね? けどそのドレス、ウチの婚約者からのプレゼントって知ってるから、素直に喜べないのよね。

 ……まあ、皮肉じみた言葉は一割も伝わっていない気がするけど。

 とりあえず、婚約者は後で呼び出して説教ね。全く。もう少し良識のある方だと思ってたんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る