第4話 『聖女』の接触
「ベリスさんベリスさん! これ、可愛くないですか!」
勉学に励む私を日本語で呼び、かつゴスロリ衣装を着こなす姿を見せつけてくるのは、異世界──というか『地球』の『日本』からやって来た黒髪紫目の『聖女』の少女。名を
陛下から彼女を押し付けられてはや半月。残念なことに陛下の毛根は死滅しなかったし、更に残念なことに私は『聖女』に懐かれてしまった。まあ付き人として共にいる時間が長いから仕方ない部分があるのはわかっているが。
「杏さん……確かに可愛いですが、今は座学に集中させてくれませんか?」
「はい!」
杏──『聖女』様は「ここで待ってますね!」と言わんばかりに横を陣取り、笑顔で私の座学風景を見ている。その様子はどこか犬のようにも思えるが……犬ほど可愛らしいとは思えない。
とはいえ見られている時ほどやりづらい事はないため、私は席を立ち、参考文献を元あった場所へと戻す。
「勉強はもう終わったんですか?」
「大した内容じゃないですからね」
どこかで読んだことのあるような会話をして、私は杏さんと共に図書館から出る。迷惑になるとわかっているなら、また別の場所で話すのが筋であるためだ。
「それはゴスロリ衣装ですか? 結構高いものだと思いますが……」
貴族は成金趣味が多い。外見さえ良ければ買うし、社交界では華やかなドレスがステータス。飾り気のないドレスは嘲笑の的だ。
とはいえそれは一部のみでもある。質素なドレスで魅せる実力がある者は華やかで気持ちの悪いドレスは着ないし、そもそも金を多く使わない。さすがにお得意様との交渉の時は絢爛に着飾ると聞いたが。
そんな世界でゴスロリ系衣装は結構普通だったりする。修飾の多いものからシンプルにフリルだけのモノまであり、社交界云々と関係なく人気の衣類だ。
「ふふふ。実はアンティリヌム様が買ってくださったのです!」
くるくるとその場で回りながら言う姿は、恋する乙女のそれである。それほどまでに好かれているなら、聖女様にプレゼントを贈った私の婚約者もさぞ嬉しかろう。
まあ、それでもショックは受けているのだ。故に私は『そうですか』としか答えられなかった。
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