第2話 『聖女』の歴史

 歴史系の書物を読み解くと、昔から異世界の聖女を招くことはよくあったようだ。

 理由もそれぞれだ。天候然り戦争然り……とりあえず『人類が危機に陥ったら聖女頼み』みたいなことらしい。ちなみにほぼ全聖女が国や人類を救った後、召喚した国の第一王子と結婚したらしい。んー、人類救った後も政治の道具として散々使われるとか同情の余地しかない。

 まあ読んでみてわかったのは、この国が呼んだとされるのは『豊穣』に関する聖女ということか。今この国で問題となっている飢饉から復興するための最終手段、といったところか。


──コンコン


 不意に部屋の扉がノックされる。

 間抜けな声を出さなかっただけいいほうだろう。私は歴史書を机に置いて、扉を開ける。


「……お父様」

「久しいな。ベリス」


 扉の前にいたのは私の父親であり我が家の主。ジョージ・ウエスタン・ブラッドストーン。

 幼子の前にでたら十中八九泣かれるだろう厳格な表情を常とし、威圧感のある無駄のない無駄な筋肉が象徴である御歳四十になるスキンヘッドの大男。

 私でなければ泣いてるね。


「お久しぶりです」

「挨拶はいい。要件だが──」


 挨拶に挨拶を返すのは最低限の礼儀だし、挨拶してきたのはテメェからだけどな……と毒づくのはさておき、親父と会話するのは何年ぶりだろうか。母と別れてからずっと執務と後釜の育成に注力していたと聞いていたけど……というか半ば捨てられたようなもんだな私。要件は兄に言ってほしいくらいだ。奴とも何年も喋ってないが。


「──国からお前を『聖女』付き人にするよう命令された。明日王城に行くように……ではな」

「……は?」


 要件を言いささっと執務室へ戻っていく親父を背に、私は思わず素っ頓狂な声を発してしまう。

 いやタイムリーすぎだし……というか付き人って何?

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