02話.[ひとりぼっちだ]
「頑張れ、あと30メートルだぞ」
な、何故か走らされていた。
既に大体3キロぐらいは走っているだろうか。
ずっと机と向き合っているよりはいいかもしれないけど辛い。
「よし、お疲れさん」
「うへぇ……」
「ほら、水を飲め」
あっという間に中身を飲み干してボトルを握りつぶした。
最近は鍛えているということもあってこんなことも容易となっている。
「これから毎日こんな感じで走るぞ」
「べ、勉強もあるから……」
「わかってる、だからそれが終わってからでいい」
なんか栗原くんの中のなにかをくすぐってしまったようだ。
自分みたいな元が弱い人間なら結果がすぐに見えていいのだろうか?
ただ3キロ走るというだけでもすごいと、少し舐められているのかも。
「静、この後って暇か?」
「うん、それは暇だけど」
そうしたら何故だか女の子を紹介された。
こんな汗だくの状態でという視線を向けても彼はスルー。
「この子がお前に興味があるみたいなんだ」
興味があるって、学校は男子校なのに。
外で話せる異性は雪姉ぐらいしかいない。
なのになんか連絡先を交換することになって、今日は解散となった。
「あれ誰?」
「お前が雪さんの弟だから注目されてんだろ」
「えぇ、雪姉の弟ってだけなのに……」
別に対面に女子校があるとかそういうのでもないのに。
というか何気に女の子と交流がある彼がすごい。
「も、もしかして彼女いるの?」
「は? いるわけねえだろ」
「そ、そうだよねっ、いくら行動力の塊である栗原くんでもそんな人いないよね! だって接点がないか――」
「そうか? 街へ行けばいくらでも異性となんて話せるだろ」
次元が違う話をされて頭が混乱してきた。
俺が同じことをしたら絶対に嫌そうな顔で見られて終わりなのに。
「この後、暇か?」
「あ、もうこういうことはやめてね」
「しない、ちょっとそこに座って話そうぜ」
休憩したいところだったから助かった。
みたらし団子を買って外のベンチで食べる。
「ここのやつはいつも美味しいなあ」
「俺はそういうの苦手だな、やっぱりハンバーガーだろ」
これから夕食なのにそれだけ食べて大丈夫なのだろうか。
ここにもし永峰くんがいたら買うのはやめておけと言われるはず。
「仁志も連れてこられれば良かったんだけどな」
「用があるんじゃ仕方がないよ」
今日は放課後の勉強タイムもなかったぐらい。
絶対にやらせるマンの彼だから本当に大切な用事だったんだろう。
別に深刻な顔をしていたとかではないから心配はしていないけど。
「それにほら、お前って俺のこと苦手だろ?」
「な、……んの話? 苦手ならこうして一緒には――」
「いや、仮に苦手でも自分から避けるのはできない人間だろ」
あ、合ってる……。
いやでも実際、露骨に反応を変えたりはできなかった。
それで絡まれたら逆にどうしようもないことになる。
相手が傷ついて自分も傷つくような展開にはさせたくない。
「だから仁志もいれば落ち着くかなと思ったんだけどやろうと考えたらすぐに実行したくなるタイプなんだ、巻き込んで悪いな」
「い、いや、こっちのことを考えてくれているのはわかるし」
そのときは疲れるだけだけど数日経つと実感する。
なんか安定感があるというか、ちょっとしたことで息切れしなかったりする時点で過去の自分とは違うとわかるから。
「たまに失敗するときもあるから遠慮なく迷惑だってそう感じたときは言ってほしい、できれば微妙なままで終わりたくないからな」
俺だってクラスメイトと仲良くできるならそれに越したことはない。
永峰くんばかりに負担をかけるのは悪いから、ある程度は自分で頑張って友達とかと高校生活というやつを楽しみたい。
苦手意識がなくなれば栗原くんほどいい存在はいないだろう、もうこの時点で普通に話すということには成功しているのだから。
「それよりありがとう、諦めずにいてくれて」
「んー、俺は別に静のことが苦手じゃないからな」
「あ、今更だけどなんで名前呼びにしたの?」
ただの野郎なのに名前が可愛すぎて困っている。
クールで美人な雪姉だったら静という名前でも似合っていたけど……。
「悪い、嫌だったか? 俺の癖でな、仲良くなるって決めた人間にはすぐに名前で呼ぶようにしているんだ」
「いや、嫌じゃないよ? ただ、いままでが名字呼びだったからさ」
「それなら良かった、継続させてもうからな」
とりあえずないと思うけど先程の子にはちゃんと言っておいた。
自意識過剰で嫌な奴になっちゃうけどしょうがない。
そもそもただ男子校に通っている男子というだけで興味を抱かれるのがおかしいし。
永峰くんや彼ぐらいの行動力があったらなんらおかしくはないけどね、少なくともこちらのために時間を使うぐらいならもっといい異性に時間を使った方がいい、それこそふたりとか。
「ごちそうさま、よし帰るか!」
「うん」
冷静に考えてみれば僕は恵まれているのかもしれない。
勉強面で支えてくれる永峰くんと、運動面で支えてくれる栗原くん。
家では成績優秀の雪姉がいてくれるし、両親も優しくしてくれるし。
なにひとつ当たり前なことなんてないから大切にしないといけない。
「静は俺より大きいだろ? だから筋肉をつけたらいいと思うんだ」
「そうしたら栗原くんを持ち上げられるかも」
「よし、それなら持ち上げて帰ってくれ」
試しにしてみたら不可能ではなかった。
結果がすぐに出るとは思わないから基礎は良かったのかもしれない。
「ま、俺は150ちょっとしかないからな」
「俺は170ー」
「うざ……」
だからこそよく動いて存在感をアピールしているのかな?
自分でも負けているところばかりじゃないと知れたのは良かった。
目の前には笑顔の永峰くん。
横には涙を流しながらこちらを見てきている栗原くん。
下には大量の永峰くん作の自作プリント。
「これをやっておいてくれ、必ず役立つから」
「え、もしかして昨日の用って……」
「そうだ、そろそろ小テストなんかもくるだろうからな」
逆に彼はなんでここまでしてくれるんだろうか。
それにそんな不安がらなくても毎回そこそこ悪くない結果というのを彼にも見せているというのに、やっぱりいつでも向上心を持ってやってくれと言いたいのだろうか。
「南波、南波なら俺を越えることもできるから安心しろ。問題があるとすれば栗原だ、ほらさっさとやるぞ!」
「し、静……後で走る約束を忘れるなよ?」
「わ、わかった」
とりあえずはせっかく作ってくれたんだしと挑戦してみた。
でも、日々やっていたからなのか小難しいというわけでもなく、どんどんと書き進めることができて楽しいぐらいだった。
ちらりと確認してみたら栗原くんは何度も永峰くんに注意されながらやっていたため、その顔面はぐしゃぐしゃ状態になっている。
「南波……協力してくれないか?」
「うん、いいけど」
こういうときに怒鳴ってしまっては駄目だ。
余計にやる気がなくなるし、意固地にもなってしまうから。
「ほら、あともうちょっとだよ、終わったら体を動かせるから」
「おう……」
わかる側からすればなんでこんなところで躓くのかわからないということでぶつかる、わからない側からすればわからないんだから聞くしかないわけで、結局は偉そうになっちゃうけどこちらが折れるのが1番なんだ。
もちろん、なんでもかんでも教えればいいというわけではない。
もしそれをするのなら本人にやらせる必要なんてなくなっちゃうし。
けど、彼の場合はこうして放課後の勉強会にも逃げずに向き合っているのだから少し柔らかく接することでいい方向に繋がると考えていた。
「よし、そこまででいいぞ」
「終わったぁ……」
「お疲れ様」
勉強も運動もそこそこでいいと考えている自分と、恐らくずっと運動をしたいと考えている彼と、どっちでも優秀者を目指そうとしている永峰くんでは考えの違いができて当然なんだ、だからあまり押し付けてしまったら逆効果になってしまう。
「それじゃあこれからは南波に頼むかな、南波がわからないところがあったら俺が教えるからいい組み合わせだろ?」
「俺はそれでいいよ」
教えることで自分も再度学べる的なことを聞いたしこれも悪い方には繋がらないだろう、それにお世話になっているから少しは返したいのもある。
「俺も静が教えてくれた方がいいわ、口うるさく言われると頭の中がごちゃごちゃするんだよ。でもその点、静は淡々と教えてくれるからいいというか……まあそんな感じだ」
「わがままな奴め……南波がいいならそれでいいけどさ」
この結果がお礼と称しての5キロということになった。
3キロだけであれなのに無理でしょと考えていた自分。
「頑張れ南波」
「うん」
だけど自分だけじゃないということが大きかったのか平気だった。
あっさりと5キロを走りきり、適当なところで座って休憩をする。
「普通に走りきれるとは思っていなかった」
「南波も高校2年生だぞ?」
「でも、プランクすら30秒もできない奴なんだぜ?」
「それとこれとは違うだろ」
確かにそうだ。
馬鹿にするつもりはないけど、こっちはゆっくりでも前に進めばいい。
けど、プランクの場合は維持しなければならないから厳しいのだ。
同じ体勢で居続けることは簡単ではない。
「南波はよくやってるよ、勉強に運動に」
「仁志は静に甘え」
「人に偉そうに言える程、自分ができていないからな」
じゃあ栗原くんに教えるためにもっと勉強が必要なのだろうか?
別に大学に行きたいとも考えていないからあまり必要性もなくなる。
計算だって最低限の四則計算ができれば十分だろう。
うん、あまり偉そうな態度で言わなければ大丈夫だろうと片付けた。
「5キロ程度で満足するな静! ほら行くぞ!」
「え……まあ、いいけど」
どうせ早く帰ってもなにも意味はないし。
雪姉だって帰ってくるのが遅いから怒られたりもしない。
なんて考えていた自分が馬鹿だった。
距離を増やすということはそれだけ自宅から離れるということで。
「よっしゃ、帰るぞ!」
「ま、待ってぇ……」
これをずっと走って帰れるような体力は自分にはなかった。
「静、起きてる?」
「うん、どうしたの?」
部屋に雪姉がやって来た。
今日は休日だからとだらだらしすぎてしまっただろうか?
「ちょっと付き合ってくれない? お買い物に行きたいの」
「わかった」
永峰&栗原塾からはなにも言われていないから大丈夫だ。
にしても、こうして休日に一緒に行動するのはかなり久しぶりだ。
「どこに行きたいの?」
「商業施設かしら、それぞれ見て回ると大変だから」
「そうなんだ」
ちょっとお金を持ってきているからいいのがあったら自分も買えばいいかもしれないと決めて付いていく。
「おーっす」
「こんにちは」
え……どうやらお友達と約束をしていたのだ。
つまり自分は……完全に荷物持ち要因として呼ばれただけだと。
幸いなのはお友達さんが頻繁に話しかけてきたりはしなかったこと、そして役割がしっかりしていることだろう。
「ちょっとお手洗いに行ってくるわ」
「うぃー」
「わかった」
おぅ、ふたりきりになってしまった。
こういうときはお互いに気まずくなって携帯をいじったり、周りを見たりといった感じなると考えていた自分。
「静くんって呼んでいい?」
「あ、はい、どうぞ」
意外にも話しかけてくるという流れに。
あと、なんか凄く話しやすいという、うん、不思議な感じだ。
「雪はね、平気で人を使うからちゃんと嫌だって言った方がいいよ?」
「頼られるのは嫌じゃないですからね」
「おぉ、偉いね静くんは」
……某アニメのキャラクターが浮かんできて困る。
ただ、残念ながら俺は男で可愛げも微塵もないんだけど。
「お待たせ」
「遅いぞ雪!」
「人が多く利用していたのよ、行きましょうか」
特に目的地があるというわけでもなく自由に見て回っていた。
し、下着が売っているところなんかにも平気で行こうとするから本当に帰りたい気持ちでいっぱいになりながらソファに座ってた。
別に特に買いたい物があるというわけでもないらしく、あくまで色々なところに寄っては見て出るという繰り返しで。
「疲れてない?」
「大丈夫だよ」
「そう、それなら良かったわ、まだまだいるつもりだから」
最近知ったことだけど、俺も動いている方が好きかもしれない。
ここは楽しい感じのBGMが鳴っていたり、歩けば歩くほど色々なお店を見ることができるから楽しいし、用はなくても寄りたかったりもする。
流石に同じ場所で30分以上留まっていたときは微妙な気持ちになったけど、それ以外では別に退屈さを感じることも特にはなかった。
「決めたわ」
「おっけー」
なるほど、その度に買うのではなく色々見てから判断するのか。
効率的……なのかな? また戻ったりすることを考えたらその度に買ってもあんまり変わらない気がするけど。
まあいい、所詮荷物持ち要因として連れてこられただけの人間がとやかく言うのは違うから付いていこう。
「これぐらいね」
「荷物持つよ」
「自分のだから自分で持つわよ」
「それならなんで俺は呼ばれたの?」
「たまには弟とお出かけしたいと考えるのは駄目なことなの?」
邪推していただけだったらしい、良くないなこういう考え方は。
「じゃあ私の荷物を持って~」
「わかりました」
「もう、嫌ならきちんと断らなければ駄目よ?」
「大丈夫だよ、重いわけでもないし」
お店を梯子するというわけでもなく今日合流したところまでやって来たらそこで解散という流れになった。
「ありがとっ」
「これぐらいなんてことはないですよ」
「それじゃあね!」
雪姉とは真反対というか、明るい人なんだなというが感想。
「静、最近は仁志君や文一君を連れてこないじゃない」
「え、栗原くんはともかく永峰くんはよく来ているけど……」
「違うわ、遊びに来ないじゃないって言いたいの」
入学してから一緒にいるけど遊んだことがあんまりないな。
この前のバッティングセンターを除けば、いつ遊んだ? と考え込んでしまうぐらいにはないような……。
「そもそも仁志君は優しくしてくれているけれど友達なの?」
「と、友達……なんじゃないかな」
一緒にいるから考えたこともなかった。
困っていそうだから一緒にいてくれているだけ?
絶対にないけど、永峰くんを越えるような能力を持っていたらああして話すこともなかったのではないだろうか。
何気に連絡先も知らないうえに、交換しようと言ったら同じ学校だし近いからその必要はないと断られていたことを思い出した。
……なにをどこまでしたら友達と言えるんだろう。
「あ、そんな顔をしないの、困らせたくて聞いたわけではないのよ?」
「うん」
やばい、本気で不安になっている自分がいる。
あの中でなら自分がいの一番に切られる存在だから。
残念ながら帰って布団にこもってみても変わらなかった。
母親が作ってくれた温かいご飯を食べても、溜められたばかりの温かいお風呂に入っても、いつかのために買っておいたアイスを食べても。
その全てが無駄になった、だから諦めようとした。
だけど、そういうこともあって寝てもすっきりはしてくれなかった。
「ちょ、ちょっといい?」
「ん? 南波か、どうした?」
「あー、時間があればでいいんだけど」
「見ての通り時間ありまくりだぞ、教室じゃ話しにくいなら出るか」
いいね、女の子だったらその手際の良さに惚れてたね。
「それでどうした? なんかあんまりらしくない雰囲気を出してるけど」
「あーその……俺と永峰くんって友達?」
「は? 友達だろ、友達じゃなかったらここまで見たりしないぞ」
良かった、友達だったらしい。
先程までのもやもやはどこかに吹き飛んでくれていた。
「なんだよ急に」
「いや、雪姉から全然遊びに来ないじゃないって言われてさ、僕らは確かに遊んだことがあんまりないなって思って……そうしたら友達なのかどうかで不安になって……」
ださいのはわかっているけどしょうがない。
頭や肉体は鍛えられても心まで鍛えられるわけではないからだ。
「つまり家に遊びに行かないだけで南波にとっては友達じゃないわけか」
「ち、違うよ、雪姉に言われてなんか不安になっちゃっただけで」
あれ、今日はなんかちょっと怖い顔をしている。
でも、連絡先を交換しようと言い出したのが出会ってから3ヶ月ぐらい経過した頃だったのに断られたからね、それが影響しているのかも。
友達だったのなら仮に使用する機会が下がろうとしてくれるんじゃないかなって考えが自分の中にあって……。
「でも、不安になったんだろ?」
「うん……」
「それは南波が俺のことを友達として見ていないからじゃないのか?」
なにも言えずにいたら「俺はちゃんと友達だと思っているからな」と残して先に教室に戻られてしまった。
相手が友達と思っているかはともかく、自分は友達だと考えていたんだから即答するべきだったのになにをしていたのか……。
「はぁ……」
余計なことを言うべきではなかった。
なんてことはないことで関係が終わるなんてこともあるんだから。
多分、永峰くんといられなくなったら栗原くんとも終わってしまう。
そうなったら学校でひとりぼっちだ。
そしてひとりで耐えられるようなメンタルも持っていない。
「おいおい、教室でため息なんかつくな」
「あ、ごめん……」
……聞かないぞ、自分から壊すようなことはもうしない。
学習能力は一応あると思う、同じような失敗は繰り返さない……はず。
だから普通に挨拶をして次の授業に備える。
授業が終わったらちょっと教室から抜け出して深呼吸。
「大丈夫……だよね?」
あれからまだ1時間しか経過していないから来てないだけだよね?
「珍しいな、南波が廊下にすぐ移動するなんて」
「あ、ちょっと息苦しくて」
「喘息とかないよな?」
「うん、大丈夫だよ」
ただ来てくれただけだというのに心臓が飛び出そうだった。
馬鹿らしい、不安になっていつも通りでいられなくなるなんて。
しかも墓穴を掘った形となる、これほど情けないことはないだろう。
「さっきはごめん」
「別に謝らなくていい」
な、なんか気まずい……。
とはいえ、これを上手く対応できる自分でもないと。
「にしても、まさかあんなことを言われるとはなー」
「雪姉に友達なのかって聞かれてさ……」
「相手をしてくれるから好きなんじゃなかったのか?」
「好きだよ? 優しいし」
自分にはない強さというものを持っているから。
有言実行できてしまうところとか、自分ができているからってできない人間を見下したりしないところとか、実際に馬鹿にしてしまう人はいるから当たり前のことだとも言いにくいし。
「さっきも言ったけど俺らは友達だ」
「うん、もう大丈夫だよ」
「栗原もな」
「そうだね」
少なくとも彼といられれば栗原くんともいられるから頑張ろう。
どうすれば嫌われないようにいられるのかはわからないけど……。
「おいおいおーい! 俺を置いてふたりだけで盛り上がるんじゃねえ!」
「別にわざと放置したわけじゃない、本当に栗原は寂しがり屋だな」
「違う! こそこそされるのが好きじゃないんだ!」
勝手なあれだけど3人でいるとやっぱり楽しいというか、自分にとってはこの光景が当たり前というか。
「それよりさっきの静はクソ野郎だったな」
「えっ?」
「これだけ一緒にいて友達なのかって聞くのはあり得ねえわ、もし俺にぶつけてたらグーで殴ってたからな」
「ごめん、そもそも栗原くんは友達扱いしてなか――ひぃ!?」
「てめえこの静この野郎!」
だってこれまでは友達の友達だったし……。
多分だけどいまでも彼のことは苦手だと思っている。
人は急にそういうところを変えられたりはしない。
「まあまあ、喧嘩はよせ」
「仁志は静に甘すぎだ!」
「正直、怒りでどうにかなりそうだったけどな俺も」
「だろっ? だからここでしめておこうぜ」
「だからってできるわけがないだろ、やるなら外でだ」
怖いぃ……けど、疑った自分が悪いんだから罰を受けなければならない。
「それにほら、土日はゆっくりと休めたようだからな」
「あ、なるほど、いいなそれ」
「だろ?」
ああ、放課後に苦労している自分が容易に想像できてしまった。
……頑張ろう、最後に家に帰れればそれで十分だ。
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