第八章 最初の第一歩

○PC教室・応接間

睦、坂谷、並んで座る。

上座に座る西原、不機嫌に腕を組んでいる。

睦、頭を下げ、

睦「この度は無知からくる失言の数々、誠に申し訳ございませんでした。そして、本日はご足労頂き、誠にありがとうございました」

西原「客が減るの、そんな困るんか?」

睦、顔を上げ、

睦「いいえ、お客様が憤慨された理由を、ようやく理解致しました。謝罪する機会、そして勉強する機会を与えて頂いた事も重ねて御礼申し上げます」

西原「見え透いた事を」

睦「娘と一緒に大東亜戦争の事を調査させて頂きました。自分の先祖、この国を守った英霊そして我が国の諸先輩に、今は、ただただ感謝するばかりです。娘も私も今は日本人であることに、大変、誇りに思っております」

西原「えらい、変わり様や。気味悪いわ」

睦「是非とも『大東亜戦争の真実』を仕上げて、戦後生まれの私達にご教示ください。私どもスタッフも、精一杯サポートさせて頂きますので」

と、頭を下げる。

坂谷「何卒、よろしくお願い致します」

と、続いて頭を下げる。

頭を下げる二人をじっと見る西原。

西原「真珠湾攻撃の原因は何や?」

睦「ハルノートですね。ただ、ハル国務長官はギリギリまで、日本との和平交渉を進めようとしてたのに、ルーズベルト政権の主要ポストにソ連の工作員が潜り込んでたから、和平を邪魔されて」

《西原の携帯電話からメールの着信音》

西原、携帯電話を見る。

西原「その先、面白くなってきそうやな。孫迎えに行くから、続きは明日や」

と、立ち上がり扉の方に歩き出す。

坂谷「え? じゃあ」

西原「『大東亜戦争の真実』再開や。ソ連のスパイの話は多少知ってたけど、もうちょっと面白い話聞けそうやな」

睦と坂谷、立ち上がり深々とお辞儀する。

睦・坂谷「ありがとうございました」

西原「うん」

と、後ろ手で手を振り部屋を出る。

西原の姿が見えなくなっても、頭を上げずお辞儀を続ける睦美と坂谷。


○小林宅・舞の部屋

勉強机に広げた原稿用紙を前に頭を抱える舞。

原稿用紙にはタイトルだけが記されている。

『卒業式 答辞』

舞、ブツブツ呟く。

舞「天皇陛下、君が代、憲法第九条……」

舞、女子生徒Bに電話する。

舞「なぁ、答辞どうしよう……うん、うん」

電話しながら、パソコン画面の検索エンジンに『卒業式 答辞』と入力する。


○中学校・体育館

卒業式リハーサル。

日野真由美(48)のピアノの伴奏で生徒や教職員が『君が代』を斉唱する。

生徒たち、儀礼的に歌う。だるそうに歌う者、後ろの生徒と会話する者、こっそりスマホを操作して全く歌わない者。

一部の教師、口を一文字にして下を向いて歌わない。

一部の教師の様子に困惑する校長と教頭。

場内の歌う姿勢を不服そうに目を光らせる滝川。

×   ×   ×

生徒たち、壇上に向き整列して座る。

校長、並びに教職員一同、壁側に一列に座る。

壇上に立つ舞、答辞を読み上げる。

舞「三年間のさまざまな思い出が頭によみがえってきます。体育祭、水泳大会、文化祭、修学旅行」

×   ×   ×

リハーサルが終了し、参加者が体育館から出て行く。

女子生徒Bと舞、談笑しながら歩く。

水野、舞に声を掛ける。

水野「爽やかで良かったよ」

舞、はにかんだ笑顔を見せる。

滝川、水野の背後から、

滝川「無難で、いまいちやったよ」

女子生徒B「そ、そんなん言うんやったら、あんたが代わりにやりぃや」

滝川「(嬉々として)マジで!」

水野「いやいや。滝川、何が気に入らんねん」

滝川「何かこう……機械的っていうか……インターネットで『卒業式 答辞』で検索したような」

女子生徒B、図星で胸を押さえる仕草。

水野「いや、でも小林も一生懸命考えたのに、それは言い過ぎやろ。な、小林」

舞、心苦しさに胸を押さえる仕草。

女子生徒B、天井を指差し、

女子生徒B「あ!」

水野、滝川、舞、指差す方向を見る。

女子生徒B、舞の腕を掴んで走り去る。

滝川と水野、二人の後ろ姿を呆気に取られた様子で眺める。

滝川「(鼻で笑い)こんなしょうもない事に引っかかりやがって」

水野「お前もやろ」

と、滝川の頭を軽く叩く。

睨み合う滝川と水野。


○パソコン教室

パソコン画面に映し出されているホームページのタイトル『大東亜戦争の真実』。

睦と西原、画面を指差しながら朗らかに会話している。


© 黒猫 2012-2020

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