第七章 諸外国から狙われ続ける日本〜太閤さんも徳川一族も必死に日本を守った

○舞の自宅・居間(夜)

夕飯を摂る舞と睦。

テレビには反日運動で声高々に主張を訴える韓国の人々の映像。

睦「あれだけ言うんやったら、嘘やなかろうし。謝ったらいいのにな」

舞「誰かも、納得いかんからって、謝ってないんちゃうん」

睦「それと、これとは話が別やん」

舞「いやいや、日本が謝らんのは、謝る理由がないからやん。まあ、お母さんの場合は謝る理由が分からへんだけやけどな。あらら」

睦「く、国の方は意地張ってるだけちゃうん」

舞「だから、意地張ってるんは、お母さんやって。国はあんな出鱈目、相手にしてないだけなんよ。謝る見込みないんやったら、次の道のこと考えた方が有意義じゃない?」

睦「自分が悪くないのに、やめさせられる方が更に屈辱やん」

舞「とはいえ、無収入で親子二人どうやって生きていくん? 自治体のお世話になるん?」

睦「あ……ハハハ。どうにかなるよ」

舞「ああ、いっつもの行き当たりばったりな感じやね」

睦「あ、それって、あれに似てるな。『行き倒れ、バッタリ』」

舞「そんな言葉あったっけ?」

睦「なかったっけ?」

舞「まあ、とりあえず、そうならんように、気を付けてください。その時には、私は叔父さんの所でご厄介になりますので。養女の手続きって難しいんかなぁ」

睦「あんた、リアルすぎて恐いわ」

舞「何はともあれ、お母さん、気を引き締めて事に当たってください。親子が離れ離れにならんで済むように」

睦「承知!」

と、敬礼する。


○舞の自宅・台所(夜)

洗い物をする睦。

舞、本を睦に見せる。

本の表紙『戦争犯罪国はアメリカだった! 著・ヘンリー・S・ストークス』。

睦「なにそれ?」

舞「図書館で見つけた」

睦「ふーん、また返しとくわ」

舞「日露戦争とか大東亜戦争から始まった話じゃなかったみたいやで。日本の防衛は」

睦、タオルで手を拭き、本を読み始める。

舞「明後日、学校に持っていくから、その後で返しに行って」

睦「うん」


○滝川宅・滝川の部屋(夜)

机に山積みされた木片。

筆で木片に文字を書く滝川。

手が墨で所々、黒くなっている。

最後の一筆を書き終えると満足げに木片を眺める。


○第八中学・教室

滝川と浪川、新たな憲法九条の木片を生徒たちに配る。

水野「おい、何でいちいち書き直してるねん」

滝川「我が国の憲法を、あんなヒョロヒョロした線のサインペンで書くとは、何たる侮辱! (生徒たちに)おい、配り直したのん、お手軽なサインペンの方で彫るなよ。こっちの、きちっとした筆の方で彫ってこい」

と、木片の筆で書いた面を見せる。

水野、生徒の机の横を歩きながら木片の枚数を確認する。

水野「あれ? 何か、枚数、増えてない?」

滝川「数学教師が数も数えれんのんか! 数学教師の風上にも置けんなぁ、とっとと、やめてしまえ!!」

水野「いや、しかし、一枚や二枚の騒ぎやないで。お前こそ、元の枚数覚えてるんか? 一人、一、二枚ぐらいやったのに、三枚の子とかいてるで」

滝川「(水野に)気のせい、気のせい(生徒たちに)失敗したり、ギブアップの時は、いつでも相談にきてなー」

水野、生徒に配られた木片をこっそり覗き見る。

水野「おい、滝川、何か関係ない文字、混じってないか」

滝川「そんな訳ないやろ」

水野「いや、でもこの三人に配られた文字『国』『軍』……『防』?」

滝川「全部入ってるやん」

水野「いやいやいや、おかしいって。国は『日本国民は、正義と秩序を基調とする』で、OKやん。軍も、『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』で、これもOKやん。問題は『防』や。どこに出てくるねん」

滝川「分かった様なこと言うな! 貴様、憲法第9条を一字一句覚えてるんか!」

水野「そらで言えるよ

滝川、胡散臭そうに水野を見る。

水野「証明したるわ。ええか、よう聞いとけよ。日本国民は、正義と秩序を」

滝川、水野に睨みを効かせながら扉の方に向かう。

水野「おい! 滝川、どこ行くねん!」

滝川「(扉の外に)すいません、もうちょっと待ってもらえます」

水野、壁に掲示している時間割表を見る。

月曜の一時間目に『日本史』の文字。

滝川「で、何やって『防』が」

水野「いや、あの、えっと……後でいいわ」

と、急ぎ足で扉に向かう。

水野の声「あれ、あれ、あれれー?」

生徒たち、俯き肩を震わせて笑いを堪える。

廊下から足音。

竹村の声「何か探し物ですか?」

水野の声「いや、あの、今、来られたんですか?」

竹村の声「そうですよ」

生徒たち、弾けた様に笑い転げる。

水野、勢いよく扉を開け、

水野「こらー! お前らー!」

生徒たちの笑い声は一層大きくなる。

竹村、水野を押し退けて教室に入り、黒板を手で叩く。

静まり返る生徒たち。

驚く水野。

竹村「他のクラスに迷惑やろ! (水野に)なめられ過ぎや」

水野「すいません」

と、一礼して教室を出て行く。

舞と女子生徒B、小声でヒソヒソ話している。

舞「(女子生徒Bに小声で)おっさん、今日も絶好調やな」

女子生徒B「(小声で)あれって、狙ってるんかな」

舞「(小声で)ああ、数学教師なだけに計算し倒してるってやつちゃう」

女子生徒B「(小声で)あれが計算やったら、赤点取って補習コースまっしぐらやん」

舞「ほんじゃあ、あれ天然? ガハハハー」

女子生徒B「(指を口に当て)シーっ!」

竹村、舞と女子生徒Bに近寄り、

竹村「お、小林、今日は元気そうやな」

舞「おかげさんで。目パッチリですわ」

と、バチバチ瞬きする。

竹村「宿題やってきたやろうな」

舞「勿論ですよ、先生」

と、足元に置いた紙袋から数冊のノートを取り出す。

竹村「これ家で書いて来たんか」

と、ノートをパラパラめくる。

舞「歴史の教科書を読めば読むほど不可解で、山のように質問が出て来ました」

竹村「大したもんや。歴史というのは探究心無しに語れん学問やからな」

舞「ただ……先生が宿題に出した範囲外の質問もあるんですけど」

竹村「小林、でかした! 何でも質問しなさい」

舞「鎖国はキリスト教を締め出すための政策とか、徳川幕府が私腹肥やすためっぽい表現で教科書に書いてあったんですけど」

竹村「私腹を肥やすまでは、書いてないけど要約したら、そうやな」

舞「だけどね、他の本やったら宣教師たちが日本人を人身売買する目的で連れ去ったって書いてましたよ。だから、豊臣秀吉も徳川幕府もキリスト教を禁止せざるを得んかったって」

竹村「いやいや、徳川が私腹肥やしてたんは事実や。大体、参勤交代もそうや。地方の武士から搾取して力を弱めててんから」

舞「先生、それやったら二つの話が入り混じってます。キリスト教の締め出しと、参勤交代は目的が全く異なります。キリスト教の締め出しは外敵から日本を守るため、参勤交代は国内の治安を安定させるため諸国大名の力を弱めさせた。良し悪しは兎も角、アプローチが違うものを同じ話の中に混ぜ混むのは混乱の素です」

竹村「ん、いいとこに気づいたな。整理することは大事なことや。よし、じゃあキリスト教の話から行こうか」

舞「かしこまりました」

竹村「しかし、聖職者が人身売買って言うのは飛躍し過ぎちゃうか」

舞「そう仰るなら、今から読むの、よく聞いててくださいよ」

舞、紙袋から付箋だらけの本を取り出し読み始める。

舞「行く先々で日本女性がどこまでいっても沢山目につく。ヨーロッパ各地で50万という。肌白くみめよき日本の娘たちが秘所まるだしにつながれ、もてあそばれ、奴隷らの国にまで転売されていくのを正視できない」

竹村「こらこら」

舞「天正遣欧少年使節の少年がローマ法王に訴えた一節です。五十万人も自国民を拐われたら、入国を禁止するのは当然のことじゃないんですか」

竹村「そんなもん、ガセネタや。そんなん、読むのやめなさい。五十万人も誘拐されて教科書に載らん訳ないやろ」

舞「それやったろ、先生は伏見桃山時代や江戸時代に友達いてたんですか?」

竹村「いてる訳ないやろ!」

舞「じゃあ、何でガセって分かるんです?」

竹村「いや、それは……」

舞「ちなみに私が、この本を信じたのは」

と、本の著者の写真を指差す。

舞「著者が白人さんだからです。ご自身の国の事実もしっかり、執筆されてます。普通、自分の先祖にあたる人たちを、ここまで、こき下ろしますか? 嘘とは思えません」

滝川「(小声で)そうや、そうや。未だに先祖をこき下ろして粗末にしてる残念な国民もいてるけどな」

竹村「何て、滝川?」

滝川「え、ああ。後で小林さんに僕から、しっかり説明しときますわ」

胡散臭そうに滝川を見る竹村。

滝川「僕はね、憲法第九条に目覚めた平和主義者ですよ。先生。これを見てください」

と、『平』『和』の木片を見せる。

竹村「それ滝川が書いたんか? 見事なもんやなぁ」

滝川「書道九段!」

竹村「この調子で答案も読める字書いてくれるか。お前の採点だけで時間えらいかかるんや」

滝川「承知つかまつった! 筆持参します」

竹村「シャーペンでいいから」

舞「先生、参勤交代は」

竹村「他の子のも聞きたいから、また次回な。そしたら、他」

と、出席簿に目を落とす。

女子生徒A、手を上げ、

女子生徒A「舞の他の質問も聞いてみたーい」

浪川「俺も、俺も」

生徒たち、口々に舞を支持する発言を口にする。

竹村「お前ら宿題やってきてないんちゃうか」

女子生徒A「いやいやいやいや、そうやなしに。宣教師が人身売買組織の一員やったっなんて、先生もテレビも教えてくれへんやん」

女子生徒B「同じ白人がそれをカミングアウトしてるんも説得力あるし」

竹村「カミングアウトって、お前。じゃあ、後、一個だけやで。小林」

舞「えーっと、それじゃあ」

竹村「参勤交代か」

舞「いえ、それよりも質問したいことがあります。でもちょっと世界史も入るんですけど」

竹村「どうぞ」

舞「アメリカ大陸はイギリス、スペインなどのヨーロッパの国が原住民の人達を大量虐殺して侵略した末に、アメリカやメキシコ、ペルー、カナダなどの国ができたっていうのは本当ですか?」

竹村「映画で考えたら分かりやすいな。僕らが子供の時は、西部劇っちゅうもんがあって、原住民の人らを悪もん扱いして白人はアメリカ建国を正当化してたけど、90年代に入って実は白人が原住民の人らを迫害してたことを映画にし始めたんや。『ダンス・ウイズ・ウルブズ』なんかが代表的やな。総合的に考えても侵略、蹂躙したことは確かや」

舞「そう考えると白人による日本人の大量誘拐もあながち、嘘とは言い切れませんよね。と、言うことは、やむを得ず、鎖国したとも言えるんじゃないんですか。もし、ほんまに私腹を肥やすためやったら、国を開きっ放しにして、いろんな国と商売した方がガッツリ儲けることができるんじゃないんでしょうか?」

竹村「言われれば、そうやな。歴史はいろんな角度から検証することが大事や。史実は百年経過せんと、歴史としては証明しがたいって言うからな。教科書も、先生が子供のときから考えたら色々変わったわ。よし、ようやった、小林。この調子で、これからもしっかり勉強しぃや」

舞「はい!」

と、敬礼する。

竹村「みんなも、今日の小林の話で歴史に興味持てたみたいやから、小林に聞くのもいいし、他にも興味でてきたら自分で本とかインターネット調べてみるのもありや。発表したくなったら、事前に言うてくれ。今日みたいに時間取るから」

滝川、張り切って手を挙げ、

滝川「先生、次回、僕が発表しまーす!」

竹村「お前は最後や」

滝川「先生、何でですか? 今すぐにでも、発表できるんですけど」

《チャイムの音》

竹村「はい、終わり! 今日は有意義な授業になったな。ありがとう、小林! 次回は普通の授業に戻るからな。はい、日直」

日直「起立、礼、着席」

竹村、教室を出て行く。

滝川、舞に近づき、

滝川「やるやんけ」

と、肘で舞を小突く。

舞「あんたが喜ぶことなんか、何もしてないけど」

滝川「あのおっさんを、あそこまで認めさせるとは。お前の強引さの勝利や」

舞「あんたが説得できひんのは、感情的になりすぎるからやん。有事では完全にマイナスー。何事に於いても肝心なんは、冷静さでっせ、兄さん。軍隊の場合、『冷静さ』は特に重要じゃないのん。あんたより私の方が、自衛隊に向いてるんちゃう?」

悔しそうに舞を見る滝川。

何食わぬ顔で本を読む舞。


○舞の自宅・舞の部屋(夜)

舞、机で勉強している。

睦、ノックして入ってくる。

睦「あの本、明日返却日やから、返してくるわ」

舞、紙袋から授業で引用した本を取り出す。

睦、本をパラパラめくる。

睦「やっぱりこの本、決定的やったな」

舞「よその国の人の証言でやっと納得して、自分の国の元総理の証言も信じられんなんて、ほんまに今の日本は歪んでるな」

睦「それ以前に弱りきってた人らの心を操るって、卑劣すぎやわ。パール判事が一番心配した『自虐史観を信じる国民』が大半になってきてるのも悲しいな」

舞「日本人が、戦争の謀略に気づくのは、もっと先なんかなぁ。私らだけじゃ何にもできひんもんなぁ」

睦「歴史の新しい側面を知った人が、戦争の話する機会があるときに、否定されても言い続けたら、いつか嘘の歴史は消えてなくなるわ」

舞「せやな。一人一人の小さな心がけで事実が日の目を見る日が来るって感じやね」

睦「明日、お客さんに謝ってくるわ。最初の第一歩や」

舞「うん」


© 黒猫 2012-2020

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