第五章 滝川大先生の『日本近代史、本当のところ』(その1)
○中学校・図書室
舞と滝川、向かい合って座る。
長机の上に散らかる大東亜戦争や太平洋戦争の書籍。
手振り身振りを付けて、必死で話す舞。
ふて腐れ気味に頬杖付きながら、舞の話を聞く滝川。
舞「別にお母さん、変な事言うてないやん。お客さんが怒る理由が、まるで分からんねんけど」
滝川「変な事だらけやがな。怒って当然や」
舞「どこが?」
滝川「すべて東京裁判ベースやから、その爺さんと話が噛み合わんねん。大体、『太平洋戦争』って言い方もなぁ」
舞「じゃあ、あんたは何て言うんよ」
滝川「大東亜戦争や」
舞「(顔を歪め)ええ! あの残酷な侵略戦争」
滝川「そこが東京裁判に汚染されてる所や。『太平洋戦争』はアメリカ側から見た戦争、『大東亜戦争』は大東亜、要するに東アジアの治安維持を目的にした自衛の戦争で……日本だけが戦ってたんじゃなくて、現地の人も我が国の軍隊に指導を受けながら一緒に戦っててんや。中国の場合は、複雑な事情がうごめいてたけど」
舞「ちょっと待って、あんた、何でそんな東京裁判に批判的なんよ。あれって、確か
と、『太平洋戦争』の書籍をパラパラめくる。
舞「あ! これこれ。『極東国際軍事裁判』って言うお堅い名前やから、ガチっと、きちっとした裁判ちゃうのん? 『国際』って付いてるねんで」
滝川「国際って付いてようが、軍事裁判って付いてようが、茶番は茶番や。稚拙な報復劇にすぎん」
と、『パール博士の日本無罪論』と『東条英機の宣誓供述書』を見せる。
滝川「インド代表のパール判事以外、全員でたらめの判決文しか書いてない」
舞、滝川に見せられた本をパラパラめくる。
舞「裁判で、そんなんあり得んやろ」
滝川「あり得ん裁判やったし、戦争自体も映画以上の、えぐい政治工作の連続や」
舞「政治工作って、日本とアメリカがお互いに仕掛け合ったってこと?」
滝川「ソ連や」
舞「太平洋戦争は日米やのに、何の関係があるん?」
滝川「ソ連は世界中にスパイを送り込んでてん」
舞「ソ連が日本とアメリカを喧嘩させて、何の得があるん?」
滝川「ソ連はこの時ドイツと戦ってたし、日本はドイツの同盟国やったから挟み討ちに遭うのを恐れててんや。だから、日本の矛先をアメリカに向けさせた訳」
舞「え! それじゃ、テレビとかで言うてるのんと話、全然違うやん」
滝川「GHQが駐留してたときの悪い習慣まだ残ってるんや。アメリカは原爆使用もずっと正当化して、日本の暴走を止めるためやったとか、未だに言うてるけど、当時、暴走してたんはアメリカの方や。ソ連に操られてたことも知らんと」
舞、ページをめくる手が止まる。
滝川「原爆使用は勿論の事、空襲にしても民間人の殺傷は国際法違反や」
○回想・新幹線車内
目を輝かせて語る珠代。
珠代「その海を船がゆっくり進みながらボーって汽笛鳴らすんよ」
○回想・原爆資料館
原爆投下直後の呉市吉浦町の写真。
○再び中学校・図書室
ぼんやりしている舞。
滝川、舞の目の前で手を叩く。
舞、驚いて我に返る。
滝川「話、聞けっちゅうねん」
舞「でも……日本が侵略してたから、仕方なかったんちゃう」
滝川「まだ言うか」
舞「だって……」
滝川「だから、そこやん。お客さんが怒るの」
舞「へ?」
滝川「じゃあ、逆に聞くけど、何で日本が侵略したと思ってるねん」
舞「だって、テレビとか新聞でも、そう言うてるし。小学校の先生も、ちょっとだけそんな話してたし」
滝川「じゃあ、そのテレビと新聞もひっくるめて、当時の日本人だけやなしに戦後から今日までの七十年の間に生まれた日本人が全員、騙されてるとしたら、どない?」
舞「またまた、そんな。それじゃ、都市伝説やん」
滝川「GHQ……マッカーサーはそれをやってのけたんや」
舞「いや、無理、無理、無理」
滝川、舞を指さし、
滝川「できてるやん。さっきのお前の答えが動かぬ証拠や。GHQは戦後すぐにラジオや新聞なんかのメディアを利用して日本軍がどれ程、残虐な行為を行ったか、でたらめの情報を毎日流し続けたんや」
舞「そんなんやったら、反対意見も」
滝川「勿論あったよ。だけどGHQが、反対意見を抑えるために日本人を言論統制しててんや」
舞「それって戦前の日本軍の話やろ」
滝川「それは共産主義者を、あぶり出すためであって意味合いが違う。やり方が強引過ぎたんは否定できんけど、実際にソ連のスパイも捕まえた。一足遅かったけど」
舞「共産主義の何が悪いん?」
滝川「戦前戦後、殺人を含む数々の暴力・テロ事件を起こして、今、現在も公安の監視対象になってる。戦後の東欧諸国、ソ連、中国、北朝鮮、全部共産主義国や。住みたいか?」
舞「あ……」
滝川、『パール博士の日本無罪論』『東条英機の宣誓供述書』の二冊を指さし、
滝川「その二冊は日本が占領下にある間、発禁処分受けててんや」
驚く舞、再び本をパラパラめくる。
滝川「奴らは日本に全ての戦争責任を押し付けようとしてたから、パール判事と東条前首相の『日本が自衛の戦争してた』っていう主張は非常に不都合やった訳や」
舞「侵略じゃなく……自衛」
滝川「この東京裁判の首謀者やったマッカーサは、何年も後に、東京裁判は間違いやったって認めた。朝鮮戦争で米韓両軍の指揮を自分でとって、やっと日本が防衛してた事に気が付いた訳やな」
舞「思い込みだけで日本を犯人扱い?」
滝川「それとは裏腹にパール判事が、日本人全員無罪論を主張したのは何でやと思う?」
舞「それこそ飛躍しすぎちゃうん。日本も悪い事してるのに」
滝川「現在に至るまで戦争を裁く法は存在せんからや」
舞「え! でも、さっき国際法で民間人の何とかって」
滝川「それぞれの行為を罰する法が存在しても、戦争そのものに対する法は無い」
舞「それでも、悪い事したことには間違い無いんやろ」
滝川「喧嘩両成敗や。日本だけ裁かれるのはおかしい。アメリカは国際法も無視して日本の民間人を大量虐殺してるのに、何で、どこからもお咎めがないねん」
舞「それは……」
机の上のスマホが振動する。
滝川「戦争に勝ったからや。勝者は敗者の歴史を塗り替える。当たり前の事や……しかし、日本人はお人好し過ぎる。七十年も、こんな出鱈目、信じてるねんから。他所の国が押し付けてきた憲法を未だに書き換えることもできてない」
と、スマホを見る。
滝川「時間や。それ読んで復習しとけ」
と、扉の方に歩き出す。
舞、神妙な顔つきで本を読み出す。
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