第四章 舞の悩みごと

○中学校・教室(夕方)

放課後、睨み合う舞と水野。

女子生徒B、面倒臭そうに二人を見守る。

女子生徒B「舞、さき部室行くで」

舞「先生、私ら忙しいねんやん。早く本題に入ってくれへんかなぁ」

水野「さっきから話の邪魔してるのん、お前やろ」

舞「邪魔って何なん! 思春期の深刻な悩みを打ち明けてるって言うのに」

水野「そしたら、そんな悩みも吹っ飛ぶ朗報や」

舞「え! 何、何?」

微笑む水野。

○同・廊下

舞の声「え〜!」

教室の方を振り向く生徒たち。


○小林宅・キッチン(夜)

舞、珠代、由美の三人が夕飯を摂る。

舞、落ち込んだ様子で食事する。

心配そうに見守る珠代と由美。

舞、溜め息一つ。

舞「はあーあ」

珠代、蝿でも追い払うかの様に、手をパタパタさせる。

舞「何してんのん?」

珠代「辛気くさいのん、退けてるねん。ご飯、まずくなるから」

舞、膨れっ面。

由美「舞ちゃんも年頃やねんし、いろいろ悩むこともあるよ」

舞「お婆ちゃん、ご飯以外に幸せなことないん?」

珠代「お婆ちゃん、ご飯食べれるんが一番幸せや。邪魔せんといて」

舞「ほんまに脳天気やなぁ」

珠代「舞ちゃん程やないよ」

舞「私のどこが脳天気なん!」

由美「二人ともそんな喧嘩せんと。舞ちゃん、学校で何かあったん?」

舞、俯く。

珠代「どないしたん?」

舞「どうしよう」

由美「誰かに嫌がらせされてるん?」

舞、困惑した様子で俯く。

珠代「いじめに遭ってるんやったら、学校なんか行かんでええからな」

舞、首を横に振る。

珠代「睦も仕事、仕事って、ちゃんと話聞いたらなあかんやん。由美さん、ちょっと電話してくるわ」

舞「そんなんちゃうねん。ほんまに」

珠代「あんた、そんなもん、かばうこと、あらへんで。図に乗るだけやがな」

由美「舞ちゃん、命賭けてまで学校に通う必要ないからな。他にもいろいろ方法あるし」

舞「違うねん! 先生が」

珠代「先生まで、荷担してるんかいな! 恐ろしぃ学校やなぁ。電話や、電話。校長先生にしたらいいんか?」

由美「校長も当たりハズレあるらしいですよ。揉み消しなんかにされたら、けったくそ悪いし、もう警察に電話した方が」

舞「違う、違うねん! 先生が卒業式に答辞読めって言いよんねん。生徒会長してるから」

珠代と由美、顔を見合わせて大笑いする。

珠代「はっきり、言わんかいな。びっくりするがな」

由美「すごいやん、舞ちゃん! お義母さん、卒業式めかし込んで行きましょうね」

珠代「何、着て行こう?」

由美「お義母さん、あの薄紫の着物、いいんちゃう」

珠代「あれは派手やわ。あれ由美さんが着たらええやん。私は」

舞、テーブルを叩き、

舞「私は、困ってるねんけど」

由美「何でなん! 名誉なことやん」

珠代「舞ちゃん、目立つの好きやし、丁度ええやん」

舞「卒業式って、先生と友達だけちゃうねんで。そんな畏まった所やったら、緊張するやん」

珠代「舞ちゃんが緊張するねんて。へぇー、へぇー、へぇー」

由美「冗談に決まってるやん、お義母さん」

珠代「もう、お婆ちゃん、舞ちゃんに騙されてばっかりやわ。ハハハ」

由美もつられて大笑いする。

悔しそうに二人を見る舞。


© 黒猫 2012-2020

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