第3話 土の妖精と翠玉の悪魔

 ここは悪魔の国です。

 暗くて湿りきっていて、人間の感覚でいうと「長くはいたくない、不快な場所」といっていいです。

 そんな悪魔の国のお城のとある廊下で三匹の悪魔が集まります。

 アビ、デク、そしてマルという名前の悪魔です。


「二人のフェアリーガールが現れたビビ」

「フェアリーガールが現れたということは、妖精の国も王女を選ぶ時期になってきたデデ」

「俺達、悪魔の国の王子を決める時期と重なったルル」


 最後に話したマルは焦りを見せます。


「王様、デビルキング様が言ってたビビ。フェアリーガールが現れた以上、一刻も早くデビルプリンスをデビルボーイから選ばないといけないビビ」


「問題はデビルプリンスを選ぶためには三人のデビルボーイがいるデデ」


 アビとデクは揃って、マルを見つめます。


「マルだけまだデビルボーイを見つけられていないビビ」

「だから、まだデビルプリンスを選べないデデ」

「い、今一生懸命探しているところルル!」


 マルは焦ります。


「だったら、早く見つけるビビ」

「足を引っ張られちゃ困るデデ」


「る、ルル……!」


「どうせ、デビルプリンスになるのは私が選んだオニキスデビル様ビビ!!」

「いや、俺が見つけたスピネルデビル様デデ!!」


 アビとデクの言い争いが始めます。


「る、ルル……!」


 マルは歯がゆい想いで見つめるだけでした。



******************



「フェアリーガールは妖精の王女フェアリープリンセスの候補者リリ! フェアリープリンセスは次の妖精の女王フェアリークイーンリリ!!」

「それは前に聞いたけど……」


 愛花はリリに向かって言います。


「私もフェアリーガール。優水ちゃんもフェアリーガール?」

「そうミミ! ミミが選んだフェアリーガールミミ!」


 ミミは誇らしげに答えます。


「フェアリーガールって二人もいるのね」

「まあ候補者って言うぐらいだものね」


 愛花は感心し、優水は納得がいったような顔をします。


「でも、他にもいたりするの?」

「今の時点では二人だけミミ」

「今の時点?」

「リリとミミのように、フェアリーガールを探してる妖精がいるミミ」

「他にもいるの?」

「土の妖精ツツ、リリ!」

「土の妖精ツツ……その子は今どこにいるの?」

「わからないリリ。でも、ララもフェアリーガールを探してるからそのうち会えるリリ」


 愛花が訊くと、リリはそう答えます。


「それで、私達はフェアリーガールなんだけど、フェアリープリンセスはフェアリーガールの中から選ばれるのよね?」

「そうミミ」


 優水が訊くと、ミミが答えます。


「どうやって選ぶの?」

「フェアリークイーン様が選ぶことになってるミミ。フェアリークイーン様はフェアリーガールの魔法を見て選ぶと聞いてるミミ」

「魔法?」

「そうなんだよ優水ちゃん! 私達フェアリーガールは魔法が出来るんだよ!」


 愛花は部屋の花瓶にある花から白い花びらを手に取ります。


「フェアリーマジック!」


 高らかに魔法を唱えます。

 すると、白い花びらが赤色に染まります。


「あ、色が変わったわ!?」

「え、本当!?」

「どうして、魔法を使った愛花が驚くミミ?」

「魔法が出来たのが初めてなのリリ」

「本当はフェアリーフラワーみたいに剣に変えたかったんだけどね」


 愛花は照れながら言います。


「それじゃ、私もやってみましょうか」


 優水も興味を持って、愛花と同じように花びらをとります。


「ふぇ、フェアリーマジック」


 優水は控えめに魔法を唱えてみる。

 白い花びらが水色に染まります。


「すごい! 優水ちゃん一回でできた!?」

「本当に変わった……!」


 優水はビックリして、水色の花びらを見つめます。


「愛花は何回もやってようやくできたリリ。なのに、優水は一回でできたリリ」

「優水の方が優秀なフェアリーガールということミミ。フェアリープリンセスになるのは優水ミミ!」


 ミミは鼻高々に言います。ちょっと早計なのでは、と思いますが。


「そのフェアリープリンセスになったら、どうなるの?」


 優水は素直に訊きます。


「妖精の王女って、人間がなってもいいの? そういうのって、妖精の女王……フェアリークイーン様、の子供とかがなったりしないの?」


 リリとミミは顔を合わせます。


「フェアリークイーン様には子供はいないリリ」

「フェアリープリンセスは人間から選ぶのは昔からのしきたりミミ」

「そう……そういうしきたりなのね」


 優水は興味がつきないみたいです。


「そうそう、フェアリープリンセスになるといいことがあるリリ」

「いいこと? それって何??」


 愛花は訊きます。

 すると、リリとミミは声を揃えてこう言います。


「「お願いを一つフェアリークイーン様から叶えてもらうリリ(ミミ)」」



******************



 翌朝、愛花は学校に登校します。


「おはよう、優水ちゃん!」


 教室でさっそく優水へ挨拶します。


「おはよう」

「ミミもいるリリ!」


 愛花のポケットからリリが出て来て、ミミへ呼びかける。


「ミミ! 悪魔が出てこないか気になってきたミミ!」


 ミミはそう言って出てきます。


「そう言って聞かなかったのよ」


 優水は困り顔で愛花に言います。

 ミミは優水の家で預かることになりました。


「うち、犬がいるんだけど……」

「全然平気ミミ! ミミ達、妖精は自分が選んだフェアリーガールの側にいて成長を見守るのが役目ミミ!」


 そういってききませんでした。まあ使命なので仕方ありませんが。


「他の人に見られたら大変ね」

「大丈夫ミミ、普通の人は見えないミミ」

「愛花さん、そうなの?」

「私は普通に見えてるからわからない」

「あ、そうだったわね」


 優水はうっかりに気づきます。


キンコーンカンコーン


 始業のチャイムが鳴ります。


タタタタタタ!!


 それと同時に教室に向かって走ってくる音がします。


ザザー!!


 原地黄唯が戸を開いて入ってきます。

「原地さん、アウトですよ」


 担任の先生が厳しく言います。


「すみません……」


 トボトボと黄唯は自分の席に着きます。


「黄唯ちゃん、遅刻か……」


 愛花は可哀想に思います。

 あんなに頑張って走っていたのに、惜しいですよね。


「黄唯ちゃん、朝起きるのがつらいのかな?」

「それには……わけがあるのよ……」


 優水は意味深な感じで言います。


「わけ?」


 愛花は首を傾げます。



******************



 今日の体育は、体力測定です。

 最初に五十メートル、次に立ち幅跳び、最後にハンドボールをすることになっています。


「よおし、頑張るぞ!!」


 愛花は張り切ります。

 転校生ということで、どのくらい運動ができるのかそれなりに注目を集めています。


「愛花さん、どのくらいできるのかしらね」

「この前は派手にすっころんでたけど、怪我一つしてなかったわよ」

「ひょっとしたらかなり運動神経いいのかも」


 そんな期待をヒソヒソと寄せていました。もちろん、当の愛花は知る由はありませんが。

 それで最初の五十メートル走が始まります。

 二人一組になって、走ることになっています。愛花は黄唯と一緒に走ります。


「黄唯ちゃん、よろしくね!」

「は、はい!」


 黄唯と身体をビクッと強張らせます。


「私、走るのは得意だから負けないよ!」

「わ、私も走るのは得意だから!」

「そう、じゃあ勝負だね!」


 愛花と黄唯はスタート位置に着きます。


「位置について……」


 体育委員の生徒がスタート合図の旗を水平に持ちます。


「よーいどん!!」


 二人はスタートしました。

 はじめのうちは、同じでしたが徐々に黄唯が差を開いていきます。


「原地さん、六秒0! 桃園さん、六秒五!」


 記録が発表されたとき、女子達は歓声を上げました。


「やっぱり、原地さん! 速いわね!!」

「それに桃園さんも速かったわね! 転校前は何か運動してたのかしら!?」


 そんなことを言っていました。


「原地さん、速いね! 全然追いつけなかった!」

「う、うん、毎日走ってるから……」

「あ……」


 愛花は自然と毎朝遅刻をしまいと全力疾走している姿を思い出します。


「毎日あんなに走ってるから速いんだね」

「あははは、そ、そうなの」


 愛花と黄唯は笑い合いました。



******************



 続く立ち幅跳びで、黄唯は二メートル三十センチの好記録を出し、最後のハンドボール投げでも黄唯は三十一メートルの記録を出しました。どちらもクラスで一番です。

 愛花の方はというと立ち幅跳びは二メートル八センチ、ハンドボールは二十五メートルで中々の記録です。


キンコーンカンコーン


 これで体育の授業は終わりました。


「黄唯ちゃん、すごいね!」


 愛花は目を輝かせる。


「そ、そんなことないよ!」


 黄唯はソワソワします。褒められるのに慣れてないみたいです。


「桃園さんこそいい記録でしたと思うけど」

「ううん、黄唯ちゃんには全然勝てないよ。あ、それと私のことは愛花でいいよ!」

「え!? あ、愛花さん……」

「うん、黄唯ちゃん!」

「あ、あわ、あわわわ……!」


 黄唯は顔を真っ赤にしてしまったので伏せて隠します。


「黄唯ちゃん、部活何やってるの?」

「え、えっと……」

「黄唯ちゃんだったら、何やっても大活躍でしょ」

「――私、部活やってないの!!」


 愛花の大きすぎる期待の眼差しに耐えられなくなって、つい怒鳴るような返事をしてしまいました。


「……え?」


 愛花は突然の大声にキョトンとしてしまいました。


「あ、ごめんなさい!」


 我に返った黄唯は謝ってからその場を逃げ出します。


「黄唯ちゃん……」


 愛花の方はなんだか申し訳ない気持ちになってしまったみたいです。



******************



キンコーンカンコーン


 放課後になりました。


「黄唯ちゃん!」


 体育の授業の後から少し気まずくなってしまいましたが、それでへこたれる愛花ではありません。こりずに積極的に黄唯に向かいます。


「あ、愛花さん……」

「一緒に帰ろう!」

「え?」

「私もまだ部活やってないから! このまま帰るんでしょ」

「で、でも、なんで、一緒に?」


「黄唯ちゃんと一緒に帰りたいと思ったからだよ」

「え……それだけ?」

「うん、それだけ!」


 愛花は屈託のない笑顔で言いきります。


「あ……」


 そこまで言われて黄唯は身体を震わせます。やがて耐えきれなくなって、カバンを持ち出します。


「ご、ごめんなさい! わたわた、私、急いで帰らないといけないから!!」


 黄唯は物凄い勢いで教室を出て行きます。


「あ……」


 愛花がそう言う頃にはもう教室に黄唯はいません。文字通り、あっという間です。


(私、避けられてるのかな……でも、ちゃんと謝ってたし、黄唯ちゃんはいい子だよね。うん、絶対に友達になりたい!)


 愛花はますますはりきります。本当にへこたれませんね


「あ……!」


 ふと床を見ると、生徒手帳が落ちてました。

 拾って名前を見ると『原地黄唯』と書いてあります。


「この生徒手帳、黄唯ちゃんのだ!!」


 すぐに届けないと、と思いましたが、あの勢いですともう学校を出てしまっていそうです。

 追いかけようにも愛花は転校してきたばかりなのでこの街に詳しくありません。


「優水ちゃん!」


 そういうわけで頼りになりそうな子に頼ることにしました。


「黄唯ちゃんの家ってどこにあるか知ってる?」

「黄唯さんの家……知らないけど、どうしたの?」

「黄唯ちゃん、手帳を落として帰っちゃって、家に届けたいの」

「そういうことだったら……先生に聞いてみましょう」


 優水は愛花を職員室に案内します。

 そこで担任の女教師に事情を説明して、黄唯の住所を教えてもらいます。



******************



「ついてきてくれてありがとう」


 同行してくれる優水に愛花はお礼を言います。


「ううん、いいのよ」


 黄唯の住所は学校を出てから十分ほど歩いた先にあるアパートでした。

 そのアパートに『原地』の表札を見つけました。

 愛花は早速呼び鈴を鳴らします。


ピンポーン


「………………」


 ですが、何の反応もありません。

 もう一回押してみます。


ピンポーン


「………………」


 やっぱり、何の反応もありません。


「留守かしら?」


 優水は言います。


「まだ帰ってきてないのかな?」


 それだったら帰ってくるのを待とうかと愛花は提案しかけます。


「あんた達、原地さんに用?」


 買い物から買ってきたらしいおばさんが声をかけてきます。


「あたしゃ隣に住んでるんだけど」

「私達、この部屋のお子さんのクラスメイトなんですけど」

「友達です!」


 愛花は強調して言います。


「そうかい、友達かい。でも今この部屋、留守なんじゃないかい?」

「はい。呼び鈴を鳴らしても返事がありません」

「あ~やっぱりね」


 おばさんは何か知っているみたいです。


「お母さんは仕事中で、お姉さんの方は病院に行ってる時間だものね」


「「病院?」」



******************



 街の病院の場所は優水が知っていたので訪れることができました。


「大きいね。これじゃ黄唯ちゃんがどこにいるのかわからないよ」

「そうね、受付で聞いた方がいいわね」


 優水は受付で病室の場所を聞き出します。

 それで、愛花と優水の二人は聞き出した病室に行きます。

 その病室にはベッドにいる男の子がいるだけでした。


「あ、黄唯ちゃん、そっくり……」


 愛花は思わずそう言います。


「え?」


 男の子は驚いて愛花と優水を見ます。


「黄唯……? 姉さんのお知り合いですか?」

「うん! 知り合いじゃなくて友達だけど!」

「友達……姉さんの……」


 男の子は笑顔になります。


「そうだよ、葉大ようた君」


 彼は黄唯の弟の葉大です。

 姉弟なのでそっくりです。小柄で大人しめで、そして花のように細くて薄い印象があります。


「本当はお姉さんに会いに来たんだけど」


 優水は本題を切り出します。


「姉さんなら……売店でお茶を買ってくるって……」

「じゃあ、すぐ戻ってくるんだね」

「うん……あ、姉さん」


 葉大は病室の入り口の方を見て言います。

 それで愛花と優水が振り向くとそこに驚いた黄唯が立っていました。


「黄唯ちゃん」


 愛花はすぐに歩み寄ります。


「愛花さん、どうして?」

「これ」


 愛花は生徒手帳を黄唯に渡します。


「私の? 届けに来てくれたの?」

「うん、黄唯ちゃん、すぐに出て行ったからここまで来たの」

「あ、ありがとう……」


 黄唯は泣きそうな顔をして、お礼を言います。

 愛花はそんな風に喜んでもらえて届けて良かったと思います。


「姉さん、いい友達だね」


 葉太は羨ましそうに言います。


「ち、ちがうの。私と愛花さんはそんなんじゃ……」

「うん、私と黄唯ちゃんは友達だよ」


 黄唯をさえぎって、愛花は言います。


「ね!」


 そして、黄唯に同意を求めます。


「う……」


 黄唯は嬉しさと気恥ずかしさがない交ぜになった顔で頷きます。


「……うん」



******************



 愛花、優水、黄唯は葉大の病室を出て、待合室に移動します。

 そこで黄唯は家族のことを話します。


「私の家、お父さんが大分前に死んじゃってお母さんが仕事で頑張ってくれてるの……でも、葉大が入院しちゃってその入院費も頑張って稼がなくちゃならなくて……」

「そ、それは大変だね……」

「うん、それで私もお母さんの内職を手伝ってるの。少しでもお母さんが楽になるようにって……」

「すごい。黄唯ちゃん、えらいね」

「それで、毎晩遅いのね」


 優水は納得したように言います。


「うん……」

「だから黄唯ちゃん毎日遅刻ギリギリなんだね」

「うん……」

「てっきり私みたいに朝寝ぼうなんだと思ってたよ。ごめんね」

「そんな、わざわざ謝らなくていいよ。悪いのはいつもギリギリな私なんだし」

「どっちが悪いかとかそういうことじゃないと思うけど」


 優水は冷静に言います。


「あ、そっか。そうだね……あはははは」


 愛花は笑います。つられて優水と黄唯も笑ってしまいます。



******************



「はあ……」


 マルは街中を飛んでいてため息をつきます。


「デビルボーイになりそうな、人間が見つからないルル」


 アビに負けないため、デクを見返すため、悪魔の国の王子になれるデビルボーイの素質を持った人間を探しているのですが、中々見つかりません


「ひょっとしたら、このまま見つからないかもしれないルル。いや、そんなはずはないルル! ちゃんと探せばきっと!」


 そう自分を鼓舞していると、地上にあるモノを見つけます。


「あいつは、妖精……!!」


 地上で誰にも気づかれず走っている妖精――土の妖精ツツでした。


「あいつ、あんなところで何してるんだルル?」


 マルは気になってあとをつけます。

 ツツはそれに気づいていないみたいです。

 そこで、ツツは追いかけることにしました。



******************



 ツツを追っていると、病院に辿り着きます。


「ルル!」


 ルルは驚きの声を上げます。


「ここにマルが探しているデビルボーイがいるルル! なんとなくそんな気がするルル!」


 マルはそう言って、病院に入ります。



******************



 一方、待合室で談笑していた愛花達はというと


「ところで……」


 黄唯は恐る恐る話題を切り替えます。


「さっきから気になっていたんですが……」

「なになに?」


「その……愛花さんの、そのポケットから見える、それはなんですか?」


「「え?」」

「リリ?」


 愛花と優水は揃って驚きます。

 愛花の胸ポケットからひょっこりとリリが出てきます。


「黄唯ちゃん、見えるの!?」

「見えるけど……それ、何なの?」

「あ、これはその……」

「妖精だよ!」


 なんて答える戸惑っている優水に対して、愛花は単刀直入に答えます。


「愛花さん、そんな風に言っても信じてもらえるわけ……」

「え、妖精!? 本物!?」


 愛花は身を乗り出してリリを見つめます。


「信じるの!?」


 優水はその反応に大いに驚きます。


「あ……私、絵本とか好きで本当に妖精がいたらいいなと思ってて」

「リリは本当に妖精なんだよ。魔法だってできるし」

「魔法?」

「ねえ、リリ? あれ?」


 リリは愛花のポケットから飛び出して、待合室を出て行きます。

 愛花達がその様子を視線で追っていくと、もう一匹の妖精がテクテクとこちらにやってきます。


「ツツ!」


 リリはその黄色の妖精をそう呼びます。

 ですが、ツツはそれを無視して愛花達に向かってきます。


「どうしたのミミ?」


 優水のポケットからミミも出てきます。


「わ、青神さんの方からも妖精が!?」

「あ、これはミミといって……」

「ツツ!」


 そう言っているうちにツツは黄唯の前にやってきます。


「見つけたツツ!」

「え?」

「ツツのフェアリーガールはきみツツ!」


 ツツは黄唯を指差してそう言います。


「「「「ええ!?」」」」


 愛花、優水、リリ、ミミは揃って驚きます。


「フェアリーガールって……何?」


 黄唯は首を傾げます。



******************



 一方、妖精のツツを追いかけて病院に来た悪魔のマルというと、


「見つけたルル!」


 ツツのことを忘れて、ある病室に向かいます。

――原地葉太の病室です。


「姉さんに友達か……いいな……」


 一人病室に取り残された葉太はそんなことを呟きます。


テクテク


 そこで自分に近づいてくる足音が聞こえてきます。


「え、何!?」

「ルル! マルが見えるルル!?」


 マルは一気に葉太のベッドへ飛び込みます。


「わわ、喋った!?」

「マルは悪魔だから喋れるのは当然ルル!」

「悪魔!? 妖精さんじゃないの!?」

「妖精と一緒にされたら困るルル!」

「そ、そうなの……?」

「ルル! マルは君のような素質のある少年を探していたルル!」

「ボクを探していた? どうして……?」

「君がデビルプリンスになれるデビルボーイの素質があるからルル!」


「デビルプリンス? デビルボーイ??」


「デビルプリンスは悪魔界の王子様で、デビルボーイはその候補になる人間の男の子の事ルル。マルはそのデビルボーイを見つけ出すことが使命ルル!」



******************



「フェアリープリンセスは妖精界の王女様で、フェアリーガールはその候補になる人間の女の子の事ツツ。ツツはそのフェアリーガールを見つけることが使命ルル」


 ツツは黄唯に向かって妖精の事を説明します。


「それで、そのフェアリーガールというのが私と優水なんだよ!」

「え、そうなの?」


 黄唯は優水に向かって訊きます。


「ええ、正直まだ信じられないのだけど」

「そうなんだ……」

「黄唯も立派なフェアリーガールツツ! 私が言うのだから間違いないツツ!」


 ツツは自信満々に言います。


「ど、どど、どうして、私が、そのフェアリーガールなんですか!? その、全然立派じゃないのに……!」


 黄唯は大いに戸惑います。


「でも、黄唯ちゃんは立派なフェアリーガールになれると思うよ。なんとなくだけど」

「な、なな、なんとなく……?」


 愛花のフォローにも黄唯は不安をぬぐえません。


「大丈夫よ、黄唯ちゃん。私もよくわかっていないんだけど」

「ふぉ、フォローになってないんだけど」

「え、そうだった……?」

「それより、黄唯ちゃんって?」

「え、ああ……愛花さんにつられてつい……ごめんなさい」


 優水は呼び方について謝ります。


「ううん、そんなことないよ。そう呼ばれて嬉しかったから」

「そうなの」

「ぶー」


 愛花は頬を振らませます。


「ど、どうしたの、愛花さん?」

「優水ちゃん、黄唯ちゃんには黄唯ちゃんで、私には愛花さんって!」

「え、それが何か?」


 優水は気づいていないみたいです。


「あ、愛花ちゃん……!」


 黄唯は思いきって愛花をそう呼びます。


「そう! そうそう!! それだよ、黄唯ちゃん!!」


 愛花は飛び上がらんばかりに喜びます。


「え、ああ、そうか」


 それを見て、優水は察します。


「あ、愛花、ちゃん……」

「うん、優水ちゃん!」


 愛花と優水は呼び合います。


「あれがリリが見つけたフェアリーガールツツ?」

「そうリリ。立派なフェアリーガールリリ!」

「ミミの優水の方が優秀なフェアリーガールミミ!」


 妖精達は妖精達で盛り上がっているみたいです。



******************



 一方の病室では……


「つまり、君達悪魔はそのデビルプリンスっていう悪魔の王子になれる素質をもった人間の男の子を探しているんだね?」

「そう! それが君ルル!!」


 マルは元気いっぱいに指を差します。


「どうして、ボクなの? ボクは身体が弱くてこうして入院ばっかりしてて、とても王子様なんて向いていないはずなのに……」

「それは関係無いルル」

「関係無い?」

「魔法は心の強さルル。身体が弱くても心が強ければ立派に魔法は使えるルル」

「それじゃ、ボクにも魔法が?」

「使えるルル!」


 マルは断言します。


「さあ、このブローチを使うルル」


 葉太はマルからブローチを受け取ります。


「これは?」

「エメラルドルル。それには悪魔王デビルキング様の力が宿っているルル」

「あ、悪魔王?」

「それをどこでもいいから身に着けるルル」

「え、こ、こうかな?」


 葉太は胸につけてみる。


「さあ、これをつけて『デビルマジック』と唱えてみるルル!」

「う、うん……で、デビルマジック!」


 葉太は控えめに唱えます。


「緑の悪魔・エメラルドデビル!」


 緑色のマントを羽織り、黒衣のスーツを身にまとった美少年へと変身が完了します。


「すごい、身体から力が溢れてくる!」

「おお、立派なデビルボーイルル! マルの目に狂いはなかったルル!」

「魔法はどうやって使えばいいんだ?」

「もう一回唱えるルル! デビルマジック、とルル。そうだ、あそこの注射なんていいルル!」

「ようし、デビルマジック!」


 エメラルドが注射に向かって、魔法を唱えます。



******************



「フェアリーマジック!」


 黄唯が魔法を唱えるとテーブルに置いた用紙がペンで書かれたような線が浮かんできます。


「すごーい!」


 愛花は手を叩いてはしゃぎます。


「本当に……魔法ができるなんて……」


 黄唯は自分の手を見て、信じられないといった顔をしています。


「やっぱり、黄唯は才能があるツツ! 絶対にフェアリープリンセスになれるツツ!」

「フェアリープリンセスになるのは、優水ミミ!」

「愛花は……ちょっと難しいかもしれないリリ」


 リリは愛花に対して辛口の評価をします。


「私だけなれないの!?」


 愛花はずっこけます。


「でも、私初めて魔法を使おうとして上手くできなかったから二人の方が才能があるのは当たり前だよね」

「立ち直りが早いのね」


 優水は感心します。


「それじゃフェアリーガールの黄唯にはこれを渡すツツ」


 ツツはブローチを渡します。


「これは?」

「これは妖精の女王・フェアリークイーン様の力が宿った特別なブローチツツ。このブローチの力を借りてフェアリーガールになるツツ」

「え、ど、どうやって……」


 黄唯は戸惑います。


「それだったらねえ」


 愛花は教えようとします。


「キャー!」


 そこで廊下から悲鳴を聞こえてきます。


「何かあったの!?」


 愛花達は廊下に出ます。

 すると病院の医者や看護婦、患者達が階段から一斉に降りてきます。まるで何かから逃げるようにです。


「何かあったんですか?」


 優水は医者の人に尋ねます。


「は、針の怪物が襲ってきたんです!」

「針の怪物?」

「上の階にいきなり出てきて、逃げてきたんです!」

「もしかして、悪魔!」


 愛花は階段を駆け上がります。


「愛花ちゃん!」


 優水もそれを追いかけます。


「愛花ちゃん! 優水ちゃん!」


 黄唯は呼び止めますが、もう二人は階段を上がっていってしまいました。


「私はどうしたら……?」

「追いかけるツツ!」


 ツツが促します。


「え、でも……」

「悪魔を倒すのもフェアリーガールの使命ツツ!」

「え、えぇ……」


 黄唯は戸惑います。急にそんなこと言われても難しいですね。


「怪物は四階の病室にいる!」

「よ、四階!? それって、葉大のいる……!!」



******************



 針の悪魔デビニードルは病室を暴れまわっていました。

 重たいベッドをひっくり返して、力強さを感じさせます。


「すごい! これがボクの魔法が生み出したボクの力なのか!!」


 エメラルドは魔法で得たチカラを酔いしれます。


「おお、すごいルル! 初めての魔法をこれだけ使いこなすとは! この少年なら必ずデビルプリンスになれるルル!」

「デビルプリンス、それになればボクはさらに力を得ることができるの!?」

「そうルル! デビルプリンスになれば何でも願いを一つ叶えられるルル!」

「何でも願いが叶う!?」


 エメラルドは問い詰めようとします。


「「フェアリーマジック!」」

「花の妖精・フェアリーフラワー!」

「水の妖精・フェアリーアクア!」


 二人のフェアリーガールが姿を現わします。


「君達はなんだ!?」


 エメラルドは驚き、問いかけます。


「あれはフェアリーガールルル!」

「フェアリーガール?」

「妖精が見つけた妖精の王女候補ルル!」

「妖精?」


 エメラルドにとって初めて聞く情報で戸惑いを隠せません。


「あの男の子は逃げ遅れたの?」


 愛花がエメラルドをそう認識して、心配そうに見つめる。


「いえ、あれは悪魔リリ! 悪魔が選んだデビルボーイリリ!」

「デビルボーイ!?」

「それは一体何なの?」


 優水が訊きます。


「悪魔が選んだ魔法が扱える素質のある男の子ミミ!」

「妖精の……フェアリーガールみたいね」

「二―!」


 デビニードルがフラワーとアクアへ針を飛ばしてきます。


「わわ!?」


 二人はこれをかわします。


「先にあの悪魔をなんとかしないとね! フラワーソード!!」


 フラワーは花びらを剣に変えて、飛んでくる針を打ち払います。


「ウォーターブラスト!」


 アクアは鉄砲を作って、水色の弾を撃ち出します。


「二―! 二―! ニニニー!!」


 しかし、デビニードルも負けじと針を飛ばしてきます。


「やああああ、フラワリングスラッシュ!!」


 その飛んでくる針をフラワーはかいくぐって斬り込みます。


パキィィィィィン!!


 金属音が響き渡ります。


「二―!」


 なんと、デビニードルは頭の針でフラワーの剣を受けました。


「か、かた!?」


 フラワーは思わぬ金属の手応えに弾かれて、後退ります。


「二―!」


 これをチャンスと見たデビニードルは頭の針でついてきます。


「わ! わわッ!?」


 フラワーはこれをかわします。



******************



 四階に駆け上がった黄唯とツツは悪魔とフェアリーガールの戦いを目の当たりにして戸惑っていました。


「こ、これって本当に現実……?」

「間違いなく現実ツツ! 君も戦えるツツ!」

「え、えぇ、私も……」

「君もフェアリーガールなら、そのブローチの力を借りて戦うツツ!」

「わ、私が、戦うなんて……」


 とても無理だと黄唯は思いました。


「そんなことないツツ! さあ、戦うツツ!」

「そんな……」


ゴォン!


 黄唯がためらっているとデビニードルは針が壁に突き刺さって、壁が崩れ落ちます。


「あっちは葉太のいる病室!? あの悪魔が向こうにいったら、葉太が……!」

「黄唯……」

「ツツさん、私がどうしたらいいの?」

「ブローチをかざして、『フェアリーマジック』と唱えるツツ!」


 そう言われて黄唯は意を決してブローチに向かって思いのたけを込めて唱えます。


「フェアリーマジック!」


 光の砂が舞い上がって黄唯の身体を包み込み、土の妖精へと生まれ変わります。


「土の妖精・フェアリーソイル!」



パキィィィィィン!!



「キャッ!?」


 飛んできた針にフラワーソードが弾かれます。


「二ニー!」


 デビニードルはフラワーに向けて一斉に針を発射します。


「クレイシールド!」


 突然出現した盾によって、針は止められます。


「た、盾!?」

「ツツリリ! やっぱり、あの子はフェアリーガールだったリリ!」

「ええ!?」


 フラワーはちょっと大げさに驚きます。


「フラワー、アクア! 私も戦うわ!!」

「ええ、お願いねソイル! ウォーターブラスト!!」


 アクアは水鉄砲を撃つ。


「二ニニニー!!」


 デビニードルはそれでも精一杯の針を発射します。


「クレイシールド!」


 ソイルは盾を魔法で出現させて針を防ぎます。

 そして、刺さった針がデビニードルに跳ね返されます。


「チ、厄介な盾だ!」


 エメラルドは苦い顔をします。


「今よ、フラワー!」

「ええ、フラワリングスラッシュ!!」


 フラワーは一気に踏み込んで、斬り込みます!


「ニニニニー!!?」


 デビニードルは悲鳴を上げて、消滅します。


「そんな、ボクの魔法が負けるなんて!」

「エメラルド様、ここは退きましょうルル!」

「く……」


 エメラルドはマルに言われるまま姿を消します。



******************



 葉太は目を開けます。

 そこは葉大の病室でした。


「あれ……?」

「目が覚めたルル」

「わあ? き、君は……?」

「寝ぼけているルル? マルは悪魔ルル」

「……夢じゃなかったんだ」


 葉太は頭を抱えて、さっきまでの出来事を思い出します。


「それじゃ、ボクは悪魔になって、魔法を使ったんだね?」

「デビルボーイルル! 凄かったルル!」


 マルは飛び上がって大はしゃぎです。


「そうだったかな……」


 葉太は照れながら言います


「葉太!」


 そこへお姉さんの黄唯が病室に飛び込んできます。


「わ、姉さん、どうしたの?」

「病院で怪物が出てきて! それで葉太が襲われるんじゃないかって! それで私心配で! 心配で!!」


 黄唯はまくし立てるように言って、葉太は困惑します。


「ちょ、ちょっとまて姉さん? どういうことなの? ボク、さっきまで寝ていたからわからないんだけど?」

「ね、寝ていた? それだけ?」

「うん、そうだけど……」


 黄唯はそれを聞いて、ガクンと肩の力が抜けてへたり込みます。


「よかった……よかった、よかった……!」


 黄唯はただそれだけ言いました。



******************



「葉太君、無事でよかったね!」


 愛花は笑顔でそう言います。


「うん、愛花ちゃんと優水ちゃんのおかげだよ、ありがとう」

「お礼を言われるほどのことじゃないわ」


 優水は答えます。


「でも、黄唯ちゃんがフェアリーガールになるなんてね」

「あの……それでフェアリーガールって……?」


 黄唯は訊きます。


「さっき、黄唯ちゃんがなったのが、フェアリーガールだよ!」

「え、そ、それはそうだけど……」


 黄唯は戸惑っています。

 まだ自分がフェアリーガールになったことが信じられないのでしょう。


「そうね、ミミ達に妖精のこと、悪魔のこと……それに願いのことも」


 優水はそう言って、はしゃいでいるリリ、ミミ、ツツ、三人の妖精を見つめます。




「ボクが悪魔になった……」


 病室のベッドで寝そべって、天井を見つめます。


「悪魔になったとき、ボクの身体は健康だった……信じられないくらい……軽くて空も飛べそうで、アハハハ」


 自然と顔が綻んでいた。


「彼が新しいデビルボーイですか」

「まさか病院にいるなんて」

「――!?」


 不意に入ってきた二人の少年に、葉太は驚きます。

 家族以外に見舞いに来る人もいないはずです。それに、このタイミングで来る人達は一体何者なのでしょうか。


「だ、誰……?」


 そう問いかけると、二人の少年は答えます。


「僕は黒原正義くろばらまさよし。君と同じ悪魔に見込まれたデビルボーイだ」

「私は村崎秀人むらさきひでと。まあ、私達はデビルプリンスの座をかけて競うライバルですが、同僚でもあります。仲良くしましょう」

「デビルプリンス、競う、ライバル?」


 葉太は戸惑いますが、秀人は言い継ぎます。


「デビルプリンスというのは悪魔界の王子です。デビルプリンスになれば、悪魔界の王デビルキングから願いをなんでも一つ叶えて貰えるんだよ。あなたにも願いがあるでしょ?」

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