第4話 三人のフェアリーガール、三人のデビルボーイ

 三匹の悪魔が中学校の屋上で集まって語らっていました。


「マルがデビルボーイを見つけてくるとはビビ」

「マルもやればできるルル!」

「すぐそうやって調子に乗るデデ」

「だけど、これで――」


 アビは真剣な表情をして言います。


「デビルボーイが三人揃ったビビ。アビが見出した正義」

「デクが選び出した秀人」

「マルが見つけた葉太」


 三匹の悪魔の魔法によって、三人の少年の姿が浮かび上がります。


「この三人で悪魔の王子デビルボーイを決める戦いが始まる!!」




******************




「リリ達見つけ出した三人のフェアリーガール……愛花、優水、黄唯、この三人のうち、もっとも魔法が優れている子がフェアリープリンセスになるリリ!」


 愛花の部屋でその三人が集まって、リリ達から話を聞いています。


「魔法が優れているってどうやって決めるの?」


 優水が挙手して訊きます。


「それはフェアリークイーン様が決めるミミ」

「ツツ達がそれぞれフェアリーガールを見つけたから、一度妖精界に行くツツ」

「妖精界に行く?」


 愛花は胸が弾むような声を出します。


「それ、どうやって行くの?」

「こうやっていくリリ!」


 リリは元気よく手をかざして答えます。


ピカ!


 するとリリの手が光ります。


「わ、光った!?」

「ミミ!」

「ツツ!」


 ミミとツツも一緒になって光る手をかざします。


「「「フェアリーマジック!」」」


 三匹の妖精は魔法を唱えます。


ガチャ


 すると部屋の扉が一人でに開きます。

 扉の先に広がっていたのは、花が咲き誇る色鮮やかな妖精界でした。


「わああああ!?」


 愛花は迷わずそこへ飛び込みます。


「キレイ!」


 優水も感嘆の声を上げて続いて入っていきます。


「すごい……これが妖精界」


 黄唯はゆっくりと辺りを見回ります。


「あ、虹!」


 愛花が空を見上げると大きな虹がかかっていることを見つけます。


「大きい、あんなに大きくて綺麗な虹は初めて見たわ」


 優水も感動を口にします。


「ええ。まるで天国に来たみたい」


 黄唯も同意します。


「妖精の女王様がいるお城にはあの虹を渡った先にあるリリ」

「え、あの虹の上を歩くの!?」


 愛花は大いに目を輝かせます。


「虹の上を歩くってそんなことができるの!?」


 優水は驚きます。


「まるでおとぎ話みたい」


 黄唯は素直にそう言います。


「虹は……光と水の反射でできる大気現象なのに、その上を歩くなんて……」


 優水は信じられない様子でした。


「フェアリーマジック!」


 リリは魔法の言葉を唱えます。

 すると虹が愛花達の目の前にかかります。


「わあ、凄い!」


 愛花はすぐに虹の橋を渡ります。


「凄い! 凄い! 私、虹を歩いてる!」

「これが魔法……」


 優水はそれでも半信半疑で虹に足をかけます。


「あ……!」


 その虹がちゃんとした足場で歩けることがわかります。


コンコン


 しかし、それでも優水は虹を石橋を叩くように確かめて歩きます。

 とても慎重ですね、氷みたいに割れたりしないか不安になるのもわかります。

 ですが一応、虹は私の魔法なんです。そんなことはありませんから安心してくださいね。

 虹を上っていくと、妖精界の素晴らしい景色が広がっていました。


「うわあ」


 愛花達は感嘆の声を漏らします。

 花畑の先には草原があって、山々が連なっています。さらにその向こうには青く輝く海がありました。


「絶景!!」

「確かにこれは凄いわね!」

「この世のものとも思えないわ!」

「妖精界、気に入ってくれてよかったリリ」

「ミミ達の故郷だから喜んでくれて嬉しいミミ」

「もうそろそろ妖精のお城ツツ」

「お城!?」


 虹がかかった先にあるのはとても立派なお城でした。


「大きくて立派なお城ね」


 優水は感心します。


「フェアリークイーン様がいらっしゃる妖精城(ようせいじょう)ミミ」

「ここにフェアリークイーン様がすんでいるのね」


 黄唯がそう言うと、お城の門が開きます。


「私達を歓迎しているみたいね!」


 愛花はそう受け取ります。

 前向きな子ですね。実際歓迎しているつもりなんですけどね。

 愛花達は門をくぐってお城の中へ入ってきます。


「うわあ!?」


 本日何度目の感嘆の声でしょうか。

 妖精の国やお城の景色に感動して貰えて、私としてはとても嬉しいのですよ。

 お城の赤じゅうたんをウキウキ、ハラハラしながら歩いている愛花達の姿はとても微笑ましいです。


「ようこそ」


 フェアリークイーンは慈愛に満ちた笑顔で言い放ちます。自画自賛ではないんですよ


「………………」


 愛花達は沈黙します。


 フェアリークイーンの威容に言葉を失ってしまったんでしょう。


「フェアリークイーン様、只今戻りましたリリ!」

「立派なフェアリーガールを連れてきましたミミ!」

「ご苦労様でした。よく連れてきましたね」

「ありがたき幸せツツ!」


 フェアリークイーンが労いの言葉をかけると、三匹の妖精の顔はパッと明るくなりました。


「愛花、優水、黄唯」

「は、はい!」


 フェアリークイーンが呼びかけると、三人は背筋をピンと伸ばします。


「私達の名前を知ってるの?」


 愛花が訊いてきます。


「はい。あなた達のことはみてきましたから」

「みてきた?」

「千里眼というのでしょうね。魔法でみれないものはありません」

「すごい!」

「それでは何でもお見通しということでしょうか?」


 優水は訊いてきます。


「それなりにはわかりますが、わからないこともあるにはあるのですよ」

「フェアリークイーン様はすごい魔法を使えるリリ!」

「すごい魔法?」


 それはどんな魔法? と愛花は目で問いかけているようでした。


「フェアリーマジック」


 フェアリークイーンは魔法の言葉を唱えます。

 すると赤じゅうたんに芽が出て、お花が咲き誇ります。

 瞬く間に赤じゅうたんは七色のお花のじゅうたんに早変わりしました。


「きれい!」

「気に入ってもらって嬉しいです」

「これがフェアリークイーン様の魔法なんですね」


 黄唯は言います。


「はい。あなた達もすぐにこのぐらいの魔法は出来るようになるはずです」

「え、私達が!?」

「リリ、ミミ、ツツが見つけ出したフェアリーガールならすぐに出来ますよ。やってみてください」

「やってみせるって、今の魔法をですか?」

「はい。この絨毯に花を咲かせてください」


 優水が問いかけると、フェアリークイーンは笑顔で答えます。


「よおし! フェアリーマジック!!」


 さっそく愛花は魔法を唱えます。

 すると、一本の芽が出ます。


「あ、あれ、これだけ……?」

「次は優水、やってみてください」

「はい!」


 優水は背筋を伸ばします。緊張していますね。


「フェアリーマジック!」


 芽が伸びて、葉が生えてきます。


「私はこんなものですね」

「次は黄唯ですね」

「は、はい!」


 黄唯は優水以上に緊張しているみたいです。


「ふぇ、フェアリーマジック」


 魔法を唱えようとして、どもって上ずってしまいました。

 けれども、葉は伸びてツボミが出来上がって、開花します。


「「「………………」」」


 一同は息を呑んでその瞬間を見つめます。

 フェアリークイーンも思わずその目を見開く。


「素晴らしい魔法でした」


 そして、フェアリークイーンは三人へ賛辞を送ります。




******************




 漆黒の夜に黄金の月だけが輝きを放ち、悪魔の御城は照らされます。


「こ、ここが悪魔の世界……」


 葉太は物珍し気に辺りを見回します。

 病室にばかりこもっている彼には外の世界というだけでも新鮮なのでしょう。


「俺も来るのは二度目だけど、壮観だよな」


 正義はそう言います。


「そうだね、できればゆっくり観光ともいきたいところだけど」


 秀人もそう言って、城を向きます。


「今日はデビルキング様にお会いする日デデ!」

「三人のデビルボーイが揃ったのだから報告するビビ」

「誰がデビルプリンスに相応しいかデビルキング様に決めてもらうルル! もちろんデビルプリンスになるのはマルが見つけた葉太に決まってるルル!!」

「そ、そんなことは……」


 葉太はマルに対して遠慮を口にします。


「それを決めるのはデビルキング様だ」


 秀人はそう言って先を行きます。

 高校生の秀人、中学生三年生の正義、一年生の葉太と年齢がはっきり別れているので、どうしても年長者の秀人が一番優秀に見えてしまいます。

 それに秀人はとても物腰が落ち着いていて、20歳の大人だといわれても違和感がありません。


(デビルプリンスになるのは、秀人さんかもしれない)


 それが正義と葉太の共通認識でした。

 そして、次の候補は正義さんだろう。と、葉大が思っていました。




******************




 秀人、正義、葉大の三人は悪魔の御城に入っていきます。

 御城の中はロウソクの灯りだけが照らされていて、とても不気味でした。


パタパタパタパタ


 コウモリが通り抜ける音が聞こえてきます。


「ひ……!」


 葉大は震えます。


「お化け屋敷とは比べ物にならないくらい怖いよね」


 正義は苦笑してそう言います。まだ二度目なので慣れてないんでしょう。


「ぼ、僕、お化け屋敷とか行ったことなくて……」

「あ、そうなんだ。それじゃ余計に怖いね」

「早く行きましょう」


 秀人は足早に先に行きます。


「クールな人、ですね」


 葉太は羨望の眼差しでその背中を追いかけます。

 そうして歩いているうちに玉座にたどり着きます。


「あれがデビルキング様だ」


 正義は葉大に耳打ちします。

 そう言われた葉太は息を呑みます。

 黒く威圧感のある巨体。猛禽類のような鋭い目に射抜かれたような感覚を覚えます。


「よくきた」


 たったそれだけの言葉ですが、威厳のこもっており身体の芯から震えました。


村崎秀人むらさきひでと黒原正義くろばらまさよし原地葉太はらちようた、悪魔に選ばれたデビルボーイ達よ」

「デビルキング様、ご拝謁賜り光栄です」


 秀人は丁寧に一礼します。


「うむ。葉大とは初顔であるな」

「は、はい!」


 葉太は緊張で背筋をピンと伸ばします。


「マルが見つけ出した余の後を継ぐ可能性を持ったデビルボーイよ」

「そ、そんなこと……僕なんかが……!」

「余の後を継げば一つだけ何でも願いを叶えてやろう」

「――!」


 葉太はその言葉を聞いて、震えを止めます。


「目の色が変わったな」


 デビンキングはそれを見て満足気に笑います。


「ハハハ、よかろう。願いがあるからこそ魔法は輝く。その目の輝きに期待しておるぞ」

「はい!」


 葉太は元気よく応じます。

 自分にこれだけの声が出せるなんて思いもしなかったので自分自身でも驚いたことでしょう。


「それでは試験しよう」


 デビルキングは指をパチンを鳴らします。

 すると、三人の前に丸い石が出現します。


「そのどこにでもある道端の石を宝石に変えてみせよ」

「正義の魔法を見せてやるデデ!」

「秀人なら楽勝ビビ!」

「葉太、頑張るルル!」


 三匹の悪魔がそれぞれのデビルボーイを応援します。


「よし!」


 三人は石に向かって魔法の言葉を唱えます。


「「「デビルマジック!!!」」」


 石はそれぞれ変化する。





 そして、三人の少年が人間界へ帰り、玉座の間はデビルキング一人だけになりました。


「フフフフ」


 デビルキングは三人がそれぞれ変えた宝石を見つめて、さも愉快げに笑います。


「アビ、デク、マル……三匹の悪魔がつれてきたデビルボーイはいずれも余の後を継ぐデビルプリンスに相応しい才気に溢れている。さて、誰がデビルプリンスになって願いを叶えることやら……」


 三つの宝石。黒のオニキス、紫のスピネル、緑のエメラルドがそれぞれの色をキラリと放ち、それぞれが自分の存在を主張しているようでした。




「葉大君、見事な魔法だったよ」


 御城から出て正義は葉太を褒めます。


「む、無我夢中でやっただけです……」

「いや、デビルボーイになったばかりだというのに、見事な魔法だよ」


 秀人も落ち着いた面持ちで言います。


「あ、ありがとうございます……僕、どうしても願いを叶えたくて……!」


 葉大はそこまで言って、堰を切ったようにさらに言い続けます。


「健康で、元気な身体になって……! 母さんや姉さんの役に立ちたいです!」

「それは、とても立派な願いだ」


 秀人は感心します。


「それじゃ、願いを叶えるために頑張らないとね。私も叶えたい願いがあるから」


 そう言って、先を行ってしまいます。


「秀人さんの叶えたい願い……正義さんにもあるんでしょうか、願い?」

「うん、でも秘密だよ」


 正義はそう答えて、葉太を置いていきます。


「秀人さんにも、秀人さんにも、願いが……」


 一人残った葉大はとても深刻そうな顔をします。

 何しろ、叶えられる願いは一つだけ。三人の中で最も優れた人が叶えられます。

 果たして、自分はあの二人に勝てるのか……勝てなかったら……

 そんな不安で顔が青ざめてしまいます。




「私の願いは世界中の人と友達になることです!!」


 愛花はフェアリークイーンの前で堂々と宣言しました。


「そうですが、それはとても素敵な願いですね」

「ありがとうございます!」

「とても大きな夢ね。でもなんだか愛花さんらしいわ」


 優水はそう言って感心します。


「そういう優水ちゃんはどういうお願いなの?」

「私、そんな……願いというほど、立派なものじゃないわ」

「どうか話してください」


 フェアリークイーンは促します。

 しかし、それは強制や催促を促すようなものではありません。


「……私の願いは、もっと強い自分になりたい、です……」

「とても立派な願いです」


 フェアリークイーンは満足げに微笑みます。


「黄唯さん、教えてください」


 今度は黄唯へ振ります。


「わ、私は……」


 黄唯は慌てふためきます。


「落ち着いてください」

「は、はい!」


 黄唯は深呼吸します。


「私の願いは、」


 そこから別人のように落ち着いた面持ちで答えます。


「――葉太が健康になって、家族みんなが幸せになることです」

「それは素晴らしい願いです」

「葉太君は元気な身体になって欲しいものね」

「三人とも叶えたい願いを聞けてとても嬉しいです。それぞれの願いを叶えるために頑張ってください」

「「「はい」」」


 フェアリークイーンは三人の返事を聞いて、笑顔で返します。




******************




 そして、三人は人間界に戻っていきました。


「三人の魔法、とても素晴らしかったです」


 フェアリークイーンは三人が魔法で咲かせた花を見て言います。


「愛花が芽を開かせ、優水が葉を育て、黄唯が花を開かせました。三人で力を合わせることはとても素晴らしいです。

――ですが、叶えられる願いはただひとつ、誰の願いが叶えられるか、それは私にもわかりません」


 フェアリークイーンはテラスに出て、妖精界、そして人間界を見渡します。


「リリ、ミミ、ツツ、どうか三人を立派なフェアリーガールにしてください」




******************




 翌朝、愛花と黄唯はそろって教室に入ります。


キンコーンカンコーン


 その直後に始業の鐘が鳴ります。


「今日は走らなくても間に合ったね」

「ええ」


 二人は席に着きます。


「今日は早かったわね」


 優水は振り向いて言います。


「リリから早起きの魔法を教えてもらったの!」

「そんな魔法があるなんて」

「遅刻するよって耳元で言ってもらうんだよ」

「ああ、そういうことね」


 優水は楽しそうに答える愛花に微笑みます。




キンコーンカンコーン


 そして、あっという間に終業のチャイムが鳴ります。時が経つのはとても速いですね。


「黄唯ちゃん、一緒に帰ろう」

「ええ」


 黄唯は笑顔で返事をします。


「愛花ちゃん、部活は入らないの?」


 そこへ優水が訊きます。


「うん、どの部活にしようか迷っちゃって!」

「前の学校だと何部だったの?」

「友達から色々誘われて、ソフトやバスケ、美術にも入ってたよ!」

「美術……?」

「ピカソって言われたこともあるよ!」

「げ、芸術的ってことかしら……?」


 優水は苦笑いします。


「だったら、ソフト部に入らない?」


 同じクラスの女子が勧誘してきます。


「桃園さんの運動神経だったら活躍できそうだし!」

「ソフトはいいよね! 優水ちゃんも黄唯ちゃんも一緒にやろうよ!!」

「え、でも、私は生徒会があるから」

「私も家に都合でできなくて」

「あぁ、そうだった……」


 女の子は申し訳無さそうに言います。


「桃園さんはどう?」

「私は、うーん、もうちょっと考えてからにするよ」

「そうなの。それじゃ、気が変わったらでもいいからいつでも来てよ。すぐ活躍できると思うから!」

「うん、ありがとう!」


 女の子は教室を出ていきます。ソフト部の部室へ向かったのでしょうね。


「ソフト部の清見さん、もう友達になったの?」


 優水が聞きます。


「うん、話があったね! ソフト部に誘われちゃって」

「そう……他にやりたい部活があるの?」

「うーん、そういうわけじゃないけど……これっていうものが決められなくて、黄唯ちゃんだったらどうする?」

「え、私……?」


 黄唯は急に自分に振られて、目を丸くします。


「わ、私、そういうのは……家のことがあるし……!」

「あ、そうだった……でも、もったいないよ。黄唯ちゃん、運動神経スゴいんだから……そうだ! 私が黄唯ちゃんの家の仕事手伝う!」

「え、ええ!?」


 黄唯は驚きます。


「一緒に部活して、一緒にお仕事する! きっと楽しいよ!!」

「そ、そんなこと……」

「いい考えね、私もご一緒させてもらおうかしら?」

「ゆ、優水ちゃんまで……!」

「私、生徒会があるけど、終わったら黄唯ちゃんのこと手伝えるから」


 黄唯はだんだん恐縮します。


「ど、どうして、そこまで私のことを……?」


 疑問を投げかけられて、二人は笑います。


「そんなの決まってるじゃない」

「黄唯ちゃんは友達だから!」




 黒原正義は生徒会室に一人いて考え込んでいました。


「葉太君……いきなり魔法を使いこなしていたな」


 頭の中にはデビルキングの前でちゃんと魔法を披露した葉大の姿が浮かびます。


「秀人さんも堂々としてすごい……俺だけが……」


 正義は頭を悩ませます。

 デビルボーイになったばかりの葉太はいきなり魔法を扱いこなしています。

 すぐに自分を追い抜いてしまうかもしれない、そう思うといてもたってもいられなくなります。


「俺は俺ですごい魔法を使えるようにならないといけないな。そのために……!」

「練習ビビ!」


 アビの一言に正義は頷いて肯定します。


「デビルマジック!」


 正義は魔法を唱えます。


「黒の悪魔・オニキスデビル!」


 オニキスは黒いマントをたなびかせて颯爽と現れます。


「さて、それでは魔法を試してみますか」


 オニキスは黒板であるものを見つけます。


「あれがいいでしょ! デビルマジック!」


 オニキスは指をパチンと鳴らす。

 すると、ここに一匹の悪魔が誕生しました。




******************




 一方、愛花、優水、黄唯の三人はといいますと、今日は黄唯の家で内職を手伝いつつ魔法の練習をすることに決まりました。

 しかし、優水は生徒会があるので遅れることを話しましたら、

「生徒会に会いたい」

 と愛花は言い出したので、黄唯も一緒に会いに行こうと提案して、いったん三人で生徒会室に行くことになりました。


「会長の正義先輩とはあったけど、他の生徒会の人はどんな人なの?」

「書記の里川さんと角田くん、会計の三原先輩がいるわ。里川さんが一年生で角田君が二年生、三原先輩が三年生よ」

「会ってみたい!」


 愛花は目を輝かせます。


「今、生徒会室に来てるかしらね……」


ドスンドスン!


 生徒会室からものすごい物音がします。


「え、なになに!?」


 愛花達は生徒会室に走ります。


ドスンドスン!


 そこに悪魔がいました。


「黒板消し!?」


 それは大きな黒板消しに手足がついた、そんな悪魔でした。


「悪魔、怪獣!! 助けて!!」


 生徒会室の方に男女の生徒がいました。


「里川さん、角田くん!」


 優水が言っていた二人の書記みたいです。


「こっちに逃げて!!」


 愛花が呼びかけます。


「「――!」」


 それに気づいた二人は一目散に逃げてきます。


「あ、副会長!」

「早く向こうに! 先生には私がしらせておくから!」

「はい!」


 二人は逃げていきます。


「悪魔なら私達が退治しましょう!」

「「「フェアリーマジック」」」


 愛花、優水、黄唯の三人は揃って、胸のブローチに向かって魔法の言葉を唱えます。


「花の妖精フェアリーフラワー!」

「水の妖精フェアリーアクア!」

「土の妖精フェアリーソイル!」


 三人のフェアリーガールが生徒会室に現れます。


「ウォーターブラスト!」


 アクアがアクアガンで水を発射します。


「ナ―!」


 悪魔は手を振るいます。

 すると、手から白い粉塵が起こり、ウォーターブラストの水が消えてなくなります。


「水が消えるなんて!?」

「だったら、私がやってみる! フラワーソード!!」


 フラワーはフラワーソードを出します。


「フラワリングスラッシュ!」


 一気に切り込みます。


「ナー!」


 悪魔は再び手をふるいます。

 すると、手から白い粉塵が起こり、斬撃が消えてなくなります。


「ええ!?」


 フラワーは驚きます。


「攻撃が消えちゃった!」

「攻撃を消すのがあの悪魔の魔法なのね」


 アクアが銃を構えて、撃つのをためらいます。

 撃っても消されてしまっては無駄だと思ったからです。


「それじゃ、どうすればいいの!?」


 ソイルはあたふたします。




「魔法が上手くできなかったな……」


 オニキスは生徒会室を出て、自分が使った魔法で上手く悪魔を誕生できなかったので落ち込んでいました。


「そう落ち込まないでくださいビビ」


 アビが慰めています。


「このままだと、スピネルに追い抜かれてしまいます。エメラルドにも分が悪いですし……」

「大丈夫ですビビ! オニキス様ならデビルキングになれますビビ!」

「ありがとうございます、アビ。もう一度練習してみます」

「ビビ!」

「どうかしましたか?」

「悪魔の気配がしますビビ! オニキス様の魔法で誕生した悪魔ですビビ!」

「私の魔法で? しかし、あれは失敗したはずじゃ?」

「時間が経って効き目が出てきたんですビビ!」

「なるほど……確認してみますか」


 オニキスはそう言って生徒会室に戻りました。

 そこで、オニキスが魔法で誕生させた黒板消しの悪魔とフェアリーガール達が戦っていました。


「フェアリーガールと私が作った悪魔が戦っている」

「あれは黒板消しの悪魔・デビルクリーナーですビビ!」


 アビがそう言うと、デビルクリーナーは力強く鳴きます。


「ナ―!」


 すると、フラワーのフラワーソードやアクアのウォーターガンの攻撃が消えてしまいます。


「相手の攻撃を消す魔法ですか、これはすごいですね!」

「さすがオニキス様の魔法ビビ!」


 オニキスの自信が取り戻します。

 一方のフェアリーガール達は、攻撃を仕掛けても消されてしまうデビルクリーナーに攻めあぐねていました。


「フラワリングスラッシュ!」

「ナ―!」


 斬撃が消されてしまいます。


「何回やっても、攻撃が消されちゃう……」


 ソイルは弱気な声を上げます。


「どうしたら、あの悪魔を倒せるの!?」


 フラワーは闇雲に剣を振るい、その度に斬撃は消されてしまいます。


「……あの手から出す白い煙が攻撃を消している」


 フラワーとデビルクリーナーの戦いを見て、アクアは観察していました。


「ナ―!」


 デビルクリーナーが反撃でパンチを繰り出します。

 フワラーはそれを難なくかわします。


「攻撃はそんなに大したことないみたいね」


 アクアはデビルクリーナーの攻撃をそう見ました。

 それこそがオニキスがデビルクリーナーを失敗だと思った理由でした。


「いけませんね、中途半端で……」


 オニキスはそう呟きます。


「フラワー!」


 アクアがフラワーへ呼びかけます。


「なに?」

「攻撃を消されてしまうのは、あの手から出す白い煙のせいよ。三人で同時に攻撃すれば消しきれないかもしれないわ」

「うん、それでいこう!」


 フラワーは元気よく答えますが、ソイルは困り果てました。


「で、でも、私は盾だから、攻撃は……!」

「盾でも攻撃はできるよ!」

「え、ええ!?」

「それが魔法でしょ」

「ま、魔法……とりあえずやってみる、フェアリーマジック!」


 すると、ソイルの手からクレイシールドが出現します。


「ストーンアックス!」


 盾から斧へ変形します。


「すごいすごい!! これなら攻撃できるよ!」

「一番攻撃力がありそう……」


 アクアはあっけに取られます。


「それじゃ、アクア、ソイル! 三人でやろう!!」

「「ええ!!」」


 フラワーの号令で、三人は一斉に仕掛けます。


「フラワリングスラッシュ!!」

「ウォーターブラスト!!」

「ロッククラッシュ!!」

「ナナナー!?」


 フラワーとアクアの攻撃は消されましたが、ソイルの強烈な一撃はデビルクリーナーを叩きました。


「やったー! アクアの作戦勝ちだね!!」

「ソイルの攻撃がよかったからよ!」

「フラワーがアドバイスしてくれたおかげよ」


 三人は笑い合います。


「三人のフェアリーガール……厄介ですね」


 オニキスは忌々しく三人を遠くから見つめてそう言います。




******************




 デビルクリーナーから逃げていった二人の生徒会の人をすぐに見つけられました。


「黒板消しの悪魔に襲われました」


 角田はそう言っていましたが、優水は苦笑いします。


 「夢でも見たんじゃないの」と三人はごまかしました。


 それでみんな揃って生徒会室に行きました。

 デビルクリーナーは三人で倒したので影も形もありませんでした。


「やっぱり夢だったのかしら?」


 里川は首を傾げます。


「夢とは?」


 黒原正義がやってきます。


「会長、さっき黒板消しの悪魔がここにいまして」


 角田にそう言われて、正義は困りました。


「はあ、悪魔……夢でも見たんじゃないのか……」


 そんな感じに反応しました。


「悪魔なんているはずないじゃないか……」

「「はあ……」」


 里川と角田は互いに顔を見合わせます。


「悪魔がいるなんてごまかすのは大変ね」


 ボソリと小声で黄唯は、優水へ言います。

「ええ……妖精だっているって信じてもらえないものね」


 優水もミミと会ってフェアリーガールにならなかったら、「妖精や悪魔はいない」と言う側になっていた。そう思えてならないのでしょう。


「正義君は悪魔がいるって信じないの?」


 愛花は正義に訊きます。


「そうだな……悪魔がいる、なんて思えないな。桃園さんはいると思ってるのかい?」

「うん! だって、悪魔も妖精もいるからね!」


 愛花は堂々と答えます。


「そう、なんだ……」


 正義はキョトンとします。


「悪魔も妖精も…‥いる、か……」


 正義はそう呟きましたが、その発言の裏で何を考えているか愛花達は知るよしもありませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る