02 たき火と炎と真っ暗闇の国
「たき火、消してもいい?」
ジャックはすぐに、たき火に砂をかけて、火を消してあげました。
「ありがとう」
スピカはそう言うと、ランタンの蓋を開け、ふうと息を吹きかけました。辺りはさっきの青い光に包まれます。
「きれいだね」
「ありがとう。私たちの国では、この光で夜を過ごしているの」
「へぇ」
「目にもいいんだから。それに、落ち着くのよ」
「本も読める?」
「もちろん。新聞の小さな字も、読めるわ」
「それは素敵だね」
「でしょう」
スピカは嬉しそうにほほ笑みました。けれどもその顔はすぐに真面目な顔つきになって、スピカは思い出すように語り出したのです。
「昔ね……」
ジャックは背筋をぴんとして、スピカの言葉を聞きのがさないように、耳を立てました。
スピカの話は、こんなふうでした。
この美しい湖のほとりの国は昔から資源が多く、住みやすく、豊かな国でした。しかしながらただ一つ問題があって、夕方になると、国を囲む深い谷から水蒸気が上がって、大きな雲が太陽を隠してしまい、夜のようになってしまうことです。
けれども、人々は夜のような闇の中で暮らす工夫をたくさん考えました。
とりわけ工夫したのが、金属やガラスを加工して、ランプやランタンを作ること。
湖の回りにはランプやランタンを加工するのにぴったりの石や砂がたくさんありましたし、谷沿いに歩いて行くと海があって、そこでも、たくさんの材料が採れたのです。
真っ暗闇の国では色とりどりのランプやランタンが作られ、その技術はどんどん進化していき、古くなったランプやランタンを元にして新しいランプやランタンをつくる技術も発明され、人々は、闇の中に美しい光を灯し、たいそう豊かにくらしていました。
しかし、人々はある時、気づいたのです。たくさんのランプやランタンが作られ、使われ、国が豊かになって行くかげで、国にあった、山や、森や、緑が失われていっていることに。
真っ暗闇の国にはランプやランタンの材料は豊富にありましたが、その中に入れる火の材料は多くはなかったのです。
火を起こすには、薪や、油が必要です。
人々は、火を起こすために、たくさんの木を切り倒したり、山を掘り起こして、油を採ったりしました。しかし、何年もそれを続けていた間に、いつの間にか、山や、森や、緑が失われていってしまったのでした。
そしていつしか、火を起こす材料のために、人々は争うようになってしまったのです。
争いのために、たくさんの人々が傷つき、国は荒れ、豊かだった人々の生活も、心までも、次第にさびれていきました。
これを悲しいことだと受け止めた人々は、決めました。
火を使うのを止めようと。
「そうやって私たちは、むやみに火を使うことを止めたの」
スピカの顔は、笑顔に戻っていました。
「今は平和。楽しい国よ」
「楽しいんだね」
「うん、毎日楽しいよ」
スピカの楽し気な顔をみて、ジャックは、急におかしくなってしまい、笑いました。
「え、なになに?」
「えっと、スピカ、まるで自分の思い出話のように話すんだもの。スピカの生まれる前の話でしょう?」
「そっか、そうよね。だけど、自分の思い出じゃないけど、大切なことだから、つい心がこもってしまったのかもしれないわ。学校の授業でもやるのよ。先生もいつも気持ちを込めて教科書を読むものだから」
スピカも自分の様子を思い出して、あははと笑いました。
「いいところだね、気に入ったよ。景色がものすごく綺麗で。しばらくこの国で暮らしてもいいかな」
「もちろんよ。ゆっくりしていって、でも、火を使ってはダメ。料理以外にはね」
ジャックは頷きました。
「しかし困ったな、夜はどうしよう。僕は火を点けるタイプのランタンしか持っていないや」
「大丈夫よジャック。旅人は、すぐには捕まったりしないわ」
「捕まるのかい?」
ジャックは驚きました。
「そうよ、料理以外に火を使うのが見つかったら、警備隊につかまって、閉じ込められてしまうの。三年もよ」
「三年も?」
「そうよ」
「それだけ火を大切にしているんだね」
「そうなの。でもよその国の人をいきなり捕まえたりはしないわ。よその国の人は、三日間だけ、見逃すことになっているの」
「でも使わないほうがいいね?」
「ありがとうジャック。それでね、その三日のうちに、役場に行ってもらって、そこで誰でも、この石をもらえるようになっているのよ」
「ただでくれるのかい」
「えぇ」
ジャックは驚きました。
「そうしたらね、ジャック。この石を、自分のランタンに入れて、息を吹きかけて使ってもいいし、シンプルなランタンなら、国で作ったものを役場でもらえるわ」
「ランタンももらえるのかい」
「ランタンはこの国の名物だもの」
「そういえば、スピカのランタンも素敵だね。青いような、緑色のような……枠の部分の青緑のような色が、石の青い光に合っていてとても素敵だよ。取っ手のところの星のマークも素敵だね」
「壊れちゃってるけどね。でもそうなの、色も、それからこの星も、素敵なのよ。星のマークは、悪いものを退ける力があるんですって」
「魔除けとか、お守りみたいなものなんだね」
「そうなの、これを灯している時は、悪いことが起こらないような気がするの。あ、ねぇ、ジャック。もしよかったら、ジャックも色いろお店を見てみるのも楽しいわよ。この国には、ほんとうに色いろなランタンがあって、お気に入りのものがきっと見つかるわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます