フェアリーテイル 星猫ジャックの星をみつける旅

小木原 見菊子

星猫ジャックとミソラと闇の国(一章)

01 黒猫ジャックとスピカと星ふたつ

 川上から川下へ、川沿いを伝って、ジャックは旅をしていました。長い、長いこの川のように、長い、長い旅です。

 川には魚がいて、ジャックは魚を捕りながら、それを食べて暮らしていました。

 旅には色いろなことがあります。

 晴れの日もあれば、雨の日も。

 けれどもジャックの旅は、楽しいものでした。

 ある時ジャックは言いました。

「そろそろ一休みしよう」

 ジャックはいつものように、魚を捕る準備を始めました。

 ジャックの魚捕りの方法は、少し変わっています。

 竿に結んだ糸の一番はじっこの針に、みみずなどのエサをつけて、竿を握って構えるところまでは一緒です。それを、タイミングよく川に向けて投げて、それからみみずが刺さった針が川の中に入ると、ジャックは息を吸って、片手をあげて、指球の先からちょんと爪を出します。

 そしてジャックがまた息をすぅと吸って、ほんの少し力を込めると、その爪が光るのです。

 そうすると不思議なことに、川をゆうゆうと泳いでいた魚たちはジャックの方に吸い寄せられて、そして針のみみずを食べた瞬間に、ジャックは釣り上げてしまうのです。

 この方法は、昼間でも使うことができるのですが、昼間は明るいので、ジャックの姿が目立ってしまいます。

 ジャックの毛並みは全身綺麗な闇の色。ジャックの姿は、夜の闇に隠れてしまいます。そうすると、魚は余計にゆだんして、ジャックの爪の光に吸い寄せられてしまうのです。

 ジャックの旅は、どんどん続きます。

 野を超え、森を超え、川沿いを伝って。

 ある時ジャックは、大きな森を超え、その先で美しい湖に辿り着きました。

 緑の美しい森に囲まれた広くて美しいその湖は、鏡のように、森の緑、空の青、空に輝く太陽を映し、風で水面がゆれるたびに、キラキラとゆらめいて光りました。

「うわぁ、きれいだなぁ」

 ジャックはまるで絵のようなその景色に感動して、しばらく辺りを見ていました。

「よし、今日はここで休もう」

 ジャックは湖のほとりにキャンプを張ることにしました。

 ジャックは素早くテントを張り、たき火を起こし、みみずを捕まえながら闇を待ちます。

 だんだんと日暮れになって、それからジャックの姿が闇に消えていきます。ジャックは用意した竿を持ち、みみずに針を刺します。それからたき火に砂をかけ、火を消しました。

そうすると辺りは真っ暗になります。

それからジャックは、水に落ちないように注意深く湖に近づき、リズムよく針を川に投げ、爪を光らせました。

「誰かいるの」

 ふいに声がしたので、ジャックは爪の光を消して、闇の中に身を隠します。どうやら、少し離れた木の下のところに、誰かがいるようです。それは、ジャックの伸長と同じくらいの小人の女の子でした。ジャックの目は闇の中でもよく見えますが、女の子はよく見えないようでした。

 ジャックは竿を置き、爪の光を自分に向けます。

「……こんばんは。僕はジャックと言います。魚捕りをしていました」

「そうなの、私はスピカ。何か光ったから、来てみたの。持っていた灯りを落としてしまって。ねぇ、あなたの光で、あのあたりを照らしてくれませんか?」

 ジャックは言われた辺りを照らしてあげました。

「あ、あった、あった」

 スピカは足元の小さい石を拾いました。

「これが飛び出してしまったの」

 スピカはその小さな石を大切そうに手のひらに乗せて、言います。

「これに息を吹きかけるとね……」

 ふぅ、とスピカが息を吐くと、青白い光が辺りを包みました。

「ほぅ」

 ジャックは思わず、ため息をつきます。

「こんなの見たことないや」

 スピカの手の中で小さな石が、見たことのない青白い、美しい光で優しく光っていました。

「あなたの指も、見たことないわ。不思議」

「これですか」

 ジャックが爪を光らせると、あたりを包む青白い光と混ざり、辺りは暖かい緑の光に包まれました。

「爪が光っているのね。色が混ざって、なんだか素敵。きれいだわ」

「本当だね」

 その緑色の光は不思議と、ジャックの心を温かい気持ちにさせるのでした。

 ジャックが爪の光を弱めたり、強めたりすると、それに合わせて辺りが青くなったり、黄色のようになったり、また、緑色になったり。スピカは気持ちが良さそうに言いました。

「なんとも素敵ね……」

「そうだね」

ジャックも気持ちが良いような気がして、光の波に見とれていると、川のほうで、急に何かが跳ねる音が聞こえました。

「魚がやってきたみたいだ。ちょっと失礼」

 ジャックはさっと竿をにぎりしめ、ひゅん、としならせました。そうするとすぐに魚がみみずを飲み込み、ジャックはそれを釣り上げました。

「わぁ、大きいみたいだ。一緒に食べますか?」

「いいの?食べる、食べる」

 たき火を起こし、二人で魚を焼いて、チーズを溶かしました。

 スピカが持っていたマシュマロも、たき火であぶって二人で食べました。

 二人の息はぴったりで、まるで昔からの親友のような気がしましたが、お腹が落ち着くと、二人はお互いについて、ほとんどのことを知らないことに気づいて、お互いに色いろ質問し合いました。

 ジャックが長い旅をしていること、スピカは生まれた時から、素敵な湖のあるこの国に住んでいること。ジャックは魚の他に、カボチャが好きで、ネギが食べられないこと。スピカはかけっこが得意で、算数が苦手なこと。そんなことがお互いにわかりました。

「ねぇ、ジャックの目は金色ね、星みたい」

 突然、スピカが言いました。

「そんなこと言われたことないや」

「自分のことはあんがい、わからないものよ」

 得意げに言ったスピカの目の色も、青い星のようだとジャックは思いました。

「ねぇスピカ、まわりはこんなに暗いけど、まだ帰らなくて平気?」

「まだ四時よ」

「えっ」

 ジャックは、リュックの中から時計を取り出しました。

「本当だ、まだ四時なんだね。それにしては真っ暗だ。夜が早すぎるように思うね。」

「そうなの、だんだんと夜が長くなっているの。でもここは闇の世界。真っ暗闇の国だから、もともと夜は長いのよ」

「真っ暗闇の国?」

 スピカの青い目が、見たことがないような光で輝きました。

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