第95話 ろすとめもり~ず

 春奈は1週間ほど学校に来なかった。

「ショックなんでしょうね」

 立花先生が生徒会室でハーブティーを飲んでいた。

「うむ…仕方あるまい」

「そうですわね」

 ビクッとなる秋季、

「春奈君…キミ…」

「心配かけましたわ、もう大丈夫ですわ」

「春奈、学校きたですか?」

 冬華が肉まんを春奈に差し出す。

「えぇ、爺やは死にました、皆さんにも迷惑を掛けましたわ」

「迷惑だなんて…そんな」

「そうだぜ春奈、俺達は誰も迷惑なんて思ってなかったぜ」

(今日は黒か…引っ叩きたくなるなホント)

「それで、爺やの葬式を考えてますの、せめて見送ってあげたくて」

「えっ…」

 僕は言葉を飲み込んだ。

 人は死ねばゾンビになる…はずだ。

 そう考えたことが無かったとは言わない、一夜にして大半の人間はゾンビ化した。

 なぜか?

 僕に答えなど解るはずはない。

 だけど…漠然と一夜にして人は死んでゾンビとして再生したのだと思っていた。

 ゾンビ化する時間は個体差があるようだった。

 だが1週間もするとゾンビが蔓延していた。

 思ったほど腐っていかない、生活も乱れない、僕は、そんな環境に安心してしまった。

 正直、家族がゾンビ化したことに目を塞いでしまった…。


「そうですね…当たり前のことをしましょう」

(爺やは、すぐにゾンビ化するから葬式なんて意味ないですよ)

 僕は、その言葉を飲み込んだんだ。

「だな…やろうぜ小太郎」

 なんで、この男はわざわざ、ブラジャーが透けるような素材をチョイスしてくるのか?

 イラッとしますマジで…。

「普通にか…そうだな、こんな世界で、たまには当たり前のことをするのも悪くないな」

「冬華、毎日自然体で生きてます」

「そうね、ホントそうね…」

 冬華を除いて、何かに気づいた面々、ありったけの知識を総動員しても、葬式に関して何も出てきやしませんでした。

「形式に拘らなくてもいいんじゃないかしら?」

 真っ先に投げ出したのは唯一の成人、立花先生だったので、誰も「No」とは言えませんでした。

 そして春奈の、お屋敷で手作りの葬式が開かれることになったのです。

「うむ…小学生の、お誕生会のようだ」

 折り紙の輪っかを繋いだものが垂れ下がり、達筆の夏男を差し置いて冬華が書いた『さよなら爺や、また会う日まで…』と『祝・ゾンビ、生まれ変わってヨロシク』の垂れ幕。

「これでいいのか?」

 春奈が笑っているから、いいのだろうと納得することにした小太郎。


『外伝 今日の田中さん』

「誰も来なくなったな…」

 毎日、彼らが見舞いに来ていたので騒がしくも楽しい日々であったと思い返していた。

「人が死んだのは悲しいし、別に俺の見舞いに来ていたわけではないのだが…誰も来ないのは寂しいものだな…」

 朝日から夕日に変わる頃…

「そうだ…退院しよう」

 自主的、退院を決めました。

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