第90話 ぶらっどたいぷ

「泥が落ちないと思ったら…このせいだったんですね」

「うむ…泥じゃないものな」

「気持ち悪いですわ」

「母体も込みで気持ち悪いわね」


 泥だと思われていた黒い物体、身体中に付着している。

 良く見りゃドゥックン…ドゥックン…脈を打っている。

「遠慮なく吸ってるな」

「ボスクラスの奴がいますね」

「針で突いたらドバーッと血が噴き出しますわよ」

「遠くからなら…あるいは?」

「冬華、ボウガン持ってきたです」

(なぜ?)

 河童を捕獲する気なのか、狩る気で来たのか…

(その対象を、さっき拝んでたよな…)

「いやいや待て待て…満足すれば勝手に剥がれると聞いたことがある、今しばらく様子を見よう」

「先生思うの、二階堂君の顔色から察するにギリギリよ」

 倒れた夏男の顔色はゾンビより青白い。

「考えるまでもない…あの巨大なヒルのせいだな」

 秋季が扇子でビシッと阿保みたいに膨れ上がっていくヒルを指す。

「そうですね、明らかに他と種が違う感じですものね」

「吸いっぷりが豪気ですわ」

「アメリカザリガニと日本ザリガニくらい違うですか?」

「そうだな、米国製はなんでも大雑把にデカいからな」

「あっ、知ってますか? 僕らが日本ザリガニだと思っていたザリガニは、ほとんどアメリカザリガニの子供らしいですよ」

「先生、ザリガニ料理って抵抗あるわ正直…」

「エビ…カニ…ヤドカリ…ザリガニ…冬華、もう解らないです」

「そうね、タラバガニはヤドカリらしいわ…先生も理不尽だなって思うもの」

「そうですよねカニって言ってるくせに、ヤドカリとか言われても困りますよね」

「結論から言えば、甲殻類は何でも食えるということだな」


 議論が一段落したところで、小太郎が本題を切り出す。

「で…二階堂さんをどうしましょう?」

「………」

 皆が関わりたくねぇな~という顔をしている。

(思いは一緒だな)

「冬華、ボウガンでいってみるです」

「あれだけ的がデカけりゃ外さんだろうがな~」

「血がドバッと吹き出しそうで嫌ですわ」

「そうね、ある意味、二階堂汁みたいなものですものね…先生もちょっと…」

「う~む、血が夏男ならば、その大半を吸ったヒルは、ほぼ夏男ということにならないか?」

「そう考えると嫌ですね」

「吸血鬼も避けて通る道ですわ」

 シュパッ…

「………じゃあ撃っても問題ないです、むしろ撃つべきです」

 冬華が放ったボウガンの矢は、巨大なヒルにドスッと刺さった。


 プルプルプル…デロンッ…

 夏男の身体から巨大なヒルが剥がれ落ちた。

(破裂しないで良かった…本当に良かった…)


 二階堂汁が飛び散らなくて良かった…が、出血多量で瀕死の夏男の身体には、まだ小さなヒルが這いまわっている。

(とりあえずヒルが満足して離れるのを待とう…)

 皆が同じ思いで、顔を見合わせ無言で頷いた。

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