第88話 は~どふーど

「カッパはいるです…」

 河原で、やめられない止まらないベストセラースナックを食べながら川を見ている冬華。

「もしかしたらエビが好物かもしれないです…」

 しみじみとスナックを指で摘まんで呟く。

 夕日に沁みる塩味エビ味流れてくるアジ…

「魚が流れてくるです」

 正確には流れくるアジの開きである。

 なぜ乾物が?

 そんなことは気にならない性格の冬華、目の前にある状況を自己流で咀嚼して飲み込むことができる17歳。

「たくさん流れてくるです」

 上流を目指し歩いて行く冬華、カッパのことなど気にならなくなっている。

 目の前をスラスラ流れるアジの開きを、ただただ追いかけていく、やめられない止まらないベストセラースナックを食べながら…。

 何分歩いただろう、アジの開きの発生源を発見した冬華。

「ゾンビです」

 それは珍しくもないゾンビであった…

「ゾンビではありません、アナタは…確かお嬢様のお友達…確か四宝堂さまでしたか」

 ゾンビのような老人、爺やであった。

「いかにも冬華は四宝堂です」

「……でしょうね」

「ソレなんです?」

「アジの開きですよ」

「なんで川に流すです?」

「水に浸すと、元に戻るんです」

「えっ? ホントですか?」

 珍しく冬華の目が興味を示す。

「嘘です」

 珍しく冬華の目が落胆を示す。

「コレはね…婆やの好物だったんですよ」

「婆や…ゾンビの婆さんですか?」

「いいえ、正しくは婆さんのゾンビです」

「どっちでもいいです」

「で? なんで流すですか? 好物なら食わせればいいです」

「そうなんですが…もう食べれないんですよ」

「ん?」

「歯がね…悪いんです、固いものはね…食べたがるんで、捨てているんですよ」

「知ってますか? カッパにも歯があるです」

「初耳です」

「そうですか~ゾンビだから歯が抜けるですか~」

「いえ…婆やはゾンビになる前から歯が悪いのです、大方、差し歯でした」

「ゾンビ関係ないですか?」

「はい、ほとんど残って無い歯で干した開きを噛んでは捨て…艦では捨てを繰り返してまして、ほとほと掃除に手を焼いてまして、そんなわけで…」

「水に戻しているですか、柔らかくするために」

「いえ捨てているんです…無ければ諦めるだろうと思いまして」

「なんか可哀想です」

「えぇ、最近は柔らかいものを食べさせていますよ、麻婆豆腐とかね」

「あぁ辛い物好きですか?」

「はい、生き生きしてきます」

「ゾンビは辛い物が好きです…カッパはスナックが好きです」

「そうなんですか?」

「そうなんです」

「四宝堂さまは、どうしてここに?」

「カッパを探しに来て、アジの開きを追ってきたです」

「カッパを…私の田舎にはカッパが住む沼ってのがありましてね……」


 小一時間、冬華はカッパの話を爺やから聞いていた。

 そして…

(カッパは沼にいるです…)

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