第87話 すたんどあっぷ

「仕方ない、ゴッドイーター‼ 戻ってこい夏男‼」

 秋季が禍々しい剣をフルスイングして夏男の後頭部を引っ叩いた。

 パコンッ…

(あっ、やっぱり闇属性だったんだ)

 音で解る。

「直し方は壊れたTVと一緒ですのね、とりあえず叩く…及ばずながら私も手伝おうかしら?」

 スッとフライパンを握る春奈。

「叩けば、よかったですか?」

 すでに夏男の顔面に蹴りを入れている冬華。

「まぁとりあえず、その顔をなんとかするほうが先なんじゃないかしら、先生、そんなピエロチックな化け物、本能的に受け付けないわよ」

「人を捨てても受け入れて貰えないとか…悲しきモンスターですね」

「捨ててねぇから、むしろ人に目覚めようとしているからね」

「まぁ、人間失格の自覚はあったのですね」

「自覚があったわけじゃねぇ、人の行くべき道を見つけただけさ」

 夏男が例の冊子を懐から取り出す。

「目が覚めたのさ…このバイブルでな」

「随分、薄っぺらいな…」

「夏男さん、そのものって感じですわ」

「鼻もかめないんじゃティッシュより価値がないわ」

「薄っすい人生なんでしょうね、こんなもんで目覚められるなんて」

「お前等、読みもしないで」

 ボワッ…

 冬華が着火メンで火を点けた。

「何すんだ‼」

 数秒で綺麗な灰に変わった夏男のバイブル。

「あぁ…あぁぁ…」

 膝から崩れ落ちる夏男の目から大量の涙が頬をつたう…。


「うわぁ…」

 小太郎が思わず声をあげた。

「見るに堪えん…」

 白塗りのメイクが涙で崩れて化け物感がマシマシになっていく。

「もう止められませんわ…」

「やめてくれない、先生のほうが泣きそうよ…悲しみが悪寒を超えてきたわ」

「やめられない、止まらない…カッパえび〇んみたいですね」

「ベストセラースナックに失礼よ佐藤君」

「カッパ?」

 冬華が走り出す。

 調理実習室の廊下に滑り込む冬華

「やられたです…」

 廊下に転がるキュウリは半分ほど食われている。

「どうしたんだ四宝堂?」

 小太郎が追いかけてきた。

 無言で、かじられたキュウリを差し出す冬華。

「エサだけやられたです…」

「まさか……四方堂…歯形があるんだけど?」

「……くちばしの中には歯が生えているです」

「歯があれば、くちばしはいらないんじゃ?」

「……雑食性? かもしれないです…肉も魚も食べるです」

「でも好物はキュウリ?」

「……菜食主義かもしれないです…あるいは好物を断つことで願掛け中かも…」

「好物を断つって…食ってるじゃん…」

「願掛け失敗して…ダイエットかもしれないです」

「カッパじゃないんじゃないかな?」

「……カッパはいるです‼」


 走り出した冬華

(きっとゾンビが食ったんだ…)

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