第85話 あいむばっく

「というわけで帰ってきちゃった」

 翌日、ヘラッと生徒会に顔を出した夏男。

「うむ、無駄に元気なようだな…夏男」

「ホント、無駄にですわ」

「しかし、凄い回復力ですね…形状記憶合金並みに今をキープできるんですね…無駄ですけど」

「うむ、戻る状態が夏男だからな、どこまで戻っても夏男のままってところが嫌だな」

「MAXが夏男さんですもの、それは誰しも、お嫌でしょうね」

「お~っと、俺の悪口もそこまでだ‼ 豆腐のような俺のメンタルが、そろそろ限界突破するぜ…グスッ…」

「そのメンタルも、すぐ戻るんですけどね」

「それが、また嫌なところなのですわ」

「外見も心も…夏男よ、オマエ、いいところが無いなハハハ」

「ハハハじゃねぇよ‼ うわぁぁあぁぁーん‼」


 生徒会室を飛び差していく夏男、登校から20分足らずの早退である。

「アレ、どうしたですか? なんか叫んでました」

 廊下ですれ違った冬華が入ってきた。

「アレは、まぁ…いつもの発作みたいなもんだ」

「入院する先を間違えたです…頭を診てもらえばよかったです」


「あぅぁ…あうあぅあ…あう」

「……というわけで、俺の心がブロークンなんですよ先生」

 夏男は学校近くでカウンセリングを受けていた。

『見開けサードアイ 今、開眼の時‼』

 そんな看板に引き寄せられたのだ。

 夏男が先生と呼ぶゾンビが冊子を手渡す。

『これで貴方もオープン・ハート・アイ』

 タイトルからして開きそうにないのだが、夏男は受け取り帰宅した。

 A5サイズ全5ページにも及ぶ、ふんわりとした内容に癒されたのだ。会員価格25万円、一般販売価格50万という誰にも解りやすい、ぼったくりである。


「なぜか懐かしいような…ピュアだった頃を思い出すな~」

 どこかで聞いた流行歌の歌詞が版権を無視して散りばめられた冊子である、それは当時を無意識に思い出すこともあるのだろう。

 最後のページに大きく筆で書かれた

『鏡を見て、自分に言うのです…まずは自分が変わるのだ…と』

 ブワッと涙が溢れる夏男。

「鏡…鏡…」

 メガネ…メガネみたいな感じで部屋の鏡に自分を映す。

「まずお前が変われって……?」


 マジマジと見た自分の姿、どこをどう変えろというのか?

 いや、どこから手を付ければいいのやら…

 解らなくなった夏男が向かったのは美容整形クリニックであったという。


『外伝 今日の田中さん』


「いや…しいたけは食えないんです、ほんと無理だから…」

 ナースゾンビに、シイタケを残したことを咎められていた。

「あぅあ‼」

 恰幅のいい婦長ゾンビが田中さんの顔にシイタケを押し付けてくるが、身動きが取れない田中さんであった。

 退院の日は見えない。

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