第84話 たいとろ~ぷ

「いやぁ~死ぬかと思ったね」

 病院で仲良く並んで寝ているミイラ男2名。

(………実は俺、ゾンビなんじゃないか?)

 田中さん、死ななかった結果に首を傾げる。

 隣で、自分と同じように包帯ぐるぐる巻きのサマーこと夏男の陽気さときたら、もう。

「なんかゾンビだけどナースっていいね」

 男はスーツ姿で3割増しになるらしいが、女はナースで3割増しになるのかもしれない。

(なんで、コイツは楽しそうなんだろう)

「制服って凄いね‼ ゾンビでも美人に見えちゃう」

(オマエがスーツ着ても3割マシな程度だろうけどな…)

 一時の感情に身を任せてユニットを組んでしまったことを激しく後悔している田中さん。

「たった1曲だけの即興ライブだったけど、俺…人生で一番熱くなれたぜ」

(ガス爆発のせいだよ)

「今も体中が熱いんだ」

(火傷のせいだよ)

「まだ俺の中で燃えているナニカがあるようなんだ」

(だから火傷だよ)

「バーニング俺‼ 燃えろマイソウル‼」

(魂まで焼かれたらもう昇天するしかねぇよ)


 一方通行な会話が4日続いた…

 田中さんのストレスは限界突破である。

 自分は、未だにミイラ男なのに、となりのバーニングは、どんどん回復していく、どこから運ばれてくるのかしらない病院食もモリモリ食っている。

 カタッ…

 トレーに箸を置く二階堂・バーニング・夏男。

「どうしたことでしょう…」

「はい?」

「どうしたことでしょう‼」

「サマー…いや二階堂氏、どうした?」

「どうしたのは俺じゃねぇ‼ アイツらはどうして見舞いに来ないのでしょう‼」

「あぁ…彼らのことか…来ないんじゃないか」

「あぁー?!」

「だって二階堂氏、良く考えてみたまえ、あのボンベを置いたのは彼等なのだよ」

「………だとしても‼ いや、だからこそ‼ 見舞いが必要なんじゃないでしょうか‼ 友として、いや人として‼」

(よっぽど嫌われてんだな…)


「見舞い‼ 見舞い‼ 見舞い‼」

 ベッドから立ち上がって見舞いコールを昼夜連呼する夏男。

 ナースゾンビに注意されても、やめやしねぇ。


「果物とか憧れるよね」

(見舞いの定番ね)

「それを剥いてくれて、あーんとか?」

(この期に及んで、ソレを期待できるコイツ…只者じゃないな)

「あと…Hな本とか持ってきて、やめろよーみたいな、じゃれ合い?」

(うっすい想像力だな…)

「グスッ…」

(泣き出した?)

「誰も来ないー‼ うわぁぁぁぁーん」


「あぅあぅあ…あうぁ…あ」


 二階堂 夏男、強制退院。


 静かになった病室で田中さんは思った。

(アイツも居場所が無い人…俺と同じ旅人なのかもしれない)


 あまり旅立たないくせに自らを旅人と称するあたり、やはり通じるものはあるのかもしれない。


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