第82話 もんすた~はんと

 小さな焚火の前で、ブツブツと話し合う夏男と田中さん。

 同じ釜の飯…飯盒の茶漬けで絆を深めたというか…傷を舐め合ったというか…共通の目的を見つけたようである。


「ところで…この充実した調理器具やら食材は立花先生が?」

 小太郎が尋ねた。

「いいえ、違うわ‼ 先生、料理は不得意よ、レトルト最高‼」

「そうですわ小太郎君、先生の冷蔵庫だとしたら、お酒がありませんもの」

「そうね、先生の家の冷蔵庫の4割は酒が占めているわ、譲れないの‼チューハイの品揃えは酒屋以上よ」

「そうですか…」

「うむ、では誰が揃えたのだろう?」

「それは、アレじゃないですか?夏男さんが聞いたという足音の主じゃ?」

「小太郎、ソレを言っちゃぁ肝試しの意味が無くなるぞ」

「ある意味、校舎に勝手に住み着いている人がいる方が幽霊より怖くないですか?」

「罠を仕掛けるです‼」

「まぁ明暗ですわ、そうすれば探さなくても勝手に捕まりますわ」

「掛かれば…ですけどね…」

「先生、チューハイが飲みたいわ…」

「学校に酒とか、一応、倫理観はあるみたいですね…先生よりは」

「勤務中には飲まないわよ、ギリギリ教育の場に身を置く者としての自覚は保っているつもりよ」

「ギリギリなんですね」


 ゴトンッ…

 冬華が廊下に何かを投げた。

「四宝堂、今?」

「罠を仕掛けたです」

「罠?」

「コレです」

 冬華は釣り竿を差し出した。

「キャンプ用品?」

「するつもりだったです」

「どこで?校庭で?」

「池の鯉を釣るために持ってきたです」

「釣るんだ?」

「釣るです、コレで」

 小太郎の前にキュウリを差し出した冬華。

「キュウリで?」

「冬華、カッパを見たいです」

(願望?)

「斬新な発想力ですわ」

「ゾンビがいるんだから、カッパがいてもな…いいのか?」

「知りませんよ、よしんば居たとして…学校にいるとは思いませんけどね」

「ん? ココにカッパが出入りしているとしたら…カッパは酒を飲まないということになるわ」

「カッパ、下戸説が浮上してきましたわ」


 校庭が賑やかになってきた。

「なんかうるさいな」

 秋季がガラッと窓を開ける。

 3階にある調理室から校庭を見ると、暗くてよく見えないが、2人の人影が肩を組んで歌っているようだ。

「夏男さんとミイラ男ですね」

「カッパじゃないです…」

「うん、ミイラ男もカッパ並みだけどね」

「エジプトのゾンビみたいなものですわ」

「そうね、じゃあ珍しくはないわ、虫が入るから窓を閉めてちょうだい」


「あっ、ミイラがギターを持ち出しましたよ」

 ギュィィーン…

「エレキですわ」


(電源はどこから?)


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