第81話 ごーすととらっぷ

「先生、感心しないわ…夜の校舎に忍び込むとか…」

「ですから教師同伴なのですわ」

「気楽に校舎を見回りつつ、学校で泊まるという非日常を楽しもうという趣旨で

 大目に見ていただきたい」

「テント持ってきたです」

「えっ? 校庭で寝るの?」

「皆、好きな所で寝ればいいのだ、もちろん私は保健室で寝る所存だ」

「あの焼野原でテントを張るなんて豪気ですわ」

「オマエにやるです」

 冬華がテントを夏男に渡した。

「あっ俺、外なの?」


 集合時間は午後6時、今、校庭では飯盒が設置されている。

 木にぶら下がる飯盒がいい具合に泡を吹く。

「そろそろいい具合だぜ」

 独り外でアウトドアを堪能している夏男、人数分用意されていた飯盒。

「あいつ達ちゃんと、おかずの用意しているんだろうな」

 飯盒を持って調理室へ向かう。

「メシは炊けたぞ……って…どういうことだー‼」

 調理室では炊飯ジャーで、ご飯が炊けていた。

「ふっくら釜炊きです」

「最新家電…恐るべし…」

「冷蔵庫には、色々ありましてよ」

「学校の調理室が、こんなに充実していたとは知りませんでしたね」

「どうした夏男、なぜ泣いている?」

 飯盒を持ったまま夏男が調理室を出ていった。

「四宝堂、飯盒も用意したの?」

 コクリと頷く冬華。

「キャンプすると思ったです」

「二階堂君、おかずも無しで6人分も食べるつもりかしら?」

「ご飯、お好きなんでしょう」

「冬華はワカメごはんならいけるです」

「あらっ、私はシソごはんですわ」

「うむ…すき焼きふりかけならば…6人分は無理か…」

「先生は、のりたま一択よ」

(夏男さん…ふりかけくらいは持っているのだろうか…)

「僕は、ごましおです」


「ちくしょーめが‼」

 校庭に設置したテントで飯盒にお湯を注いでサケ茶漬けをサラサラ食っている夏男。

「隣いいかい…」

「んぎゃぁぁぁー‼ ミイラ男‼」

「ハハハ、違う違う…私だよ」

「知らんわボケー‼ あっゴメンなさい、おとなしく棺で寝ていてください」

 全身包帯に私だと自己紹介されて誰だか解るはずもない。

「田中だよ」

「日本に大勢いるわーボケ‼ あっゴメンなさい、ピラミッドから出ないでください」

 エジプシャンゾンビ、それがミイラ男である。

「だから田中だ…いいかげん気づいてくれ…」

「……なんだ田中か…脅かすな、田中の分際で」

「私もいいかい?」

 返事を待たずに田中さんは飯盒にお湯を注いで食べ始めた。

「梅茶漬けはいいね…春を感じるよ」

「夏の終わりに何言ってんだオマエ」

「私と組まないか?」

「なんで?」

「友達にならないか…二階堂君」


 田中は薄く笑った。

 包帯で表情はよく解らなかったが…。

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