第80話 ぼんば~まん

 命からがら校庭を後にした田中さん、出血量だけならゾンビを超えている。

 大怪我である。

「まさか転がったボンベからガスが漏れていたとは…不覚」

 壁に身体を預け、ゾンビ以上にフラフラと歩きながら、病院へ向かう。

「あぅあ?」

 ナースゾンビに案内されドクターゾンビに診てもらう。

「うぁ…あう…おぅ?」

 そのまま入院コースであった。

 病院内では服装で区別しないと、だれが医者やら患者やら区別がつかない。

「皆、病人か怪我人に見える…」

 ベッドでナースゾンビが田中に差し出したオロナ〇ンの缶

「一応、火傷だとは診断できるようだ」

 塗るのはセルフサービスのようだが。

「くそ…あのチッコイのが牛さえ放さなければ、十数人のゾンビなどに後れを取ることなどなかったものを…」

 田中さん、この数週間で大分、ワイルドを増してきたようで…何があったのか?

「覚えてろよー‼」

「あうぁーあうあ‼」

 ゾンビナースに他の患者ゾンビの迷惑だからと怒られる田中さん。

(焦った…食われるかと思った…)

 本質的には変わっていないのかもしれない。


「冬華…前髪無くなりました…」

 髪を洗ったら焦げた部分が千切れたようだ。

「まぁ見事なパッツンですわ」

「ハハハ、こけしのようだ」

「すぐに生えるよ四宝堂」

「今、無いから困ってるです」

「じゃあ、今日の議題は、冬華くんの髪型を考えるにしよう」

「パッツン前提だと…髪型は限られますわね~」

「そうですね、前髪に合わせたら、えらいことになりそうですね」

「そこだけ伸びればいいんだがな」

「それが出来ないから困ってらっしゃるのですわ」


 不毛な会話が続いた…

 気付けば部屋の隅でハサミを握っている冬華。

「全部なければいいような気がしてきたです」

「うむ…見上げた潔さだ」

「面白いことになりそうだから止めわしませんわ」

「止めましょうよ…」


 保健室では夏男が寝ていた。

 夏休みも終盤、まさか保健室で泊まることになろうとは…

「怖かった…俺は怖かったぞー‼」


 立花先生が帰ったあと、校舎には誰もいなくなるのだ。

 ゾンビも眠る、丑三つ時…誰もいないはずの校舎に響く足音。

 保健室の前で止まる足音、しばらくすると、足音は遠ざかっていった。

「あんまり動かない方がいいと思うのよ先生…」

 そんな曖昧な理由でベッドに縛り付けられた夏男、逃げ出すことも出来ずに震えていたのだ。


「本当なんだってば‼ 夜の校舎にはナニカがいるんだ‼」

 驚異の回復力で火傷を完治させた夏男が生徒会室で喚き散らす。


「うむ…不審者か?」

「幽霊ってこともありますわ」

「ゾンビにゴーストに…もう手に負えませんね」

「冬華、前髪伸びたです」


 そんなわけで…夏休みの終盤は、肝試し兼、幽霊散策と決まりました。

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