第78話 ふぁいや~すたーた~

「まぁ牛が走ってきますわ」

 春奈がポンッと手を叩く。

「笑ってる場合じゃないでしょ‼」

 中二病から回復した小太郎が屋台を捨てて校舎へ避難する。

「なるほど…その通りだ」

 秋季と春奈が軽自動車に乗り込む。

「えっ? えっ? えーっ‼」

 立花先生、慌てて小太郎の後を追う。


「んしょ…んしょ…」

 とりあえず木に登る冬華、緊急避難である。

 校長のお立ち台で暴走ゾンビを指揮する夏男、自らの屋台を守るため拳を握る田中さん、迫りくる闘牛。

 ゾンビ師団VS闘牛VS個人…最後に立っているのは?


 バカーンッ‼

「許してあげられそうにありません…」

 木の上で観戦している冬華が呟く。

 牛は思いのほか頭が良かった。

 自らが、何かされそうな屋台(冬華所持)を一直線に狙って粉砕したのだ。

 転がるボンベ…散らかる木片、砕けた冬華の野望…色々な物を、その角でぶち抜いてしまった。

 カッ…カッ…蹄が地面を掻き、巨体が校庭を駆け巡る。

「チッ…牛は後回しだ‼ あの男を狙えゾンビ共‼」

「あぅあー‼」

 心なしか通常の1.3倍マシで呻くゾンビが田中さんの方へ歩き出す。

「軽く見られたものだな…私とて、この数週間、ただ、たい焼きを焼いていたわけではないのだよ…ゾンビの扱いなどお手の物だ‼」

 ゾンビ相手に商売していた田中さんの、良く解らない自信に裏付けはあるのか?

 ボゥワァー‼

 ボンベを巧みに調整して火炎放射器のように扱い、ゾンビに火を放つ田中さん、そして火は牛のけん制にもなっている。

「恐るべし田中さん…だな」

「攻防一体って感じですわね」

 軽自動車の中で観戦モードの秋季と春奈。


「ん~…アレは…ダメな展開ね」

「そうですね…僕達は経験済みですからね」

 2階の窓から観戦している立花先生と小太郎。


 焦げた臭いが校庭に充満して、炎に焼かれるゾンビがうろつき、牛が暴れる。

「地獄絵図のようだ…」

 小太郎は子供の頃に見た絵本の地獄を思い出していた。


 10分も、そんな状態が続き…ゾンビがスケルトンへジョブチェンジして復活し始め、牛が半壊していた小太郎の屋台を滅茶苦茶にしたころであった。

 悲劇とは、様々な状況が重なり合って起こるものなのだ…。


 ボフッ…ボンッ‼


 校庭に爆発音が響いた。

 1階のガラスが割れ…軽自動車がひっくり返り、夏男が火傷を負い、アフロに変わった。

 数本のボンベが引火し爆発したのだ。


「8割がた田中さんのせいだ…」

 小太郎は思った。


 消防ゾンビが鎮火に勤しんだ後は…数本の骨と、牛の丸焼きが残っていたという…。


(ホントに死人が出ないのが不思議なくらいだ…)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る