第74話 とらふぃっくあくしでんと

「僕だってねー‼ 牛が来るとわかっていれば赤い服など着てきませんよ‼」

 立花先生の『テープマジック』では覆いきれないほどの擦り傷と切り傷多数の小太郎、無限に出てくる最小サイズ絆創膏が身体中に貼られる姿が痛々しい。


「軽トラック…壊れてしまいましたわ…」

「とんだ、貰い事故だったなハハハ」


 遡ること数分前…

 木の上で状況を静観している冬華、ゾンビの後方に隠れた立花先生。

 校庭で牛に追われる小太郎、なんとか助けようと軽トラックで救出に向かった春奈達であった。

「小太郎‼ 俺の手を掴め‼」

 荷台から差し伸べられたゲロ塗れの夏男の手

 ニチャッ…

「汚ったねぇ‼」

 ヌルッとした手では小太郎の体重を掴むことは出来なかった…

 前のめりに転んだ小太郎の身体が牛の角に突きあげられ宙を舞う。

(翼が無くても…飛べたよ…皆)

 薄れゆく意識の中、宙を舞いながら小太郎は冬華と目が合った。

 出会いはスローモーション…


 校庭に叩きつけれた小太郎に暴れ牛の2撃目が…次第に赤みを増していく小太郎の身体に立花先生は声を漏らした

「うわぁぁ…」


「うぅむ…いかんな、このままでは小太郎が血まみれのゾンビになってしまう」

「まぁ、それはいけませんわ…生生し過ぎますわ」

「すまねぇ…俺が吐いたばっかりに…許せ小太郎」


「させませんわ‼」

 ギヤをバックに入れてアクセルをベタ踏みする春奈。

 ピーッ…ピーッ…ピーッ…

 ギャギャギャギャ…スカッ…

「うむ…春奈くん、もうちょっと右だ」

「まぁバックは難しいですわ、もう一回…あらっ…リトライ…」

 幾度かの空振りを繰り返し、ようやく牛に軽トラをぶつけることに成功した春奈。



 軽トラから降りた秋季が春奈に尋ねた。

「尋ねたいのだが…なぜ正面からではなくバックで?」

「怖かったんですの、ほらっ牛に車をぶつけるなんて教習所では習いませんでしょ」


 校庭には血だらけの赤シャツ小太郎

 脳震盪を起こした牛

 そして途中で軽トラから飛び降り春奈に跳ねられた夏男が倒れている。

「先生、見てましたよ…三宮寺さんが正面から二階堂君を跳ねたところをね、ほらっ、ココが凹んでるわ」

 軽トラの正面を指さす立花先生。

「ハハハ、どうりで、ドンッという衝撃はあったような気がしたのだが、まさか夏男だったとはね」

「まぁ…免許減点でしょうか?」

「殺意は無かったんだ、OKにしようじゃあないかハハハ……無かったんだよな?」

 一応聞いてみる秋季

「もちろんですわ、気づきもしませんでしたわ…ほらっ、アリを踏んでも気づきませんでしょホホホッ」


 木の上で冬華は考えていた。

(ビーフ…痛んでないといいです…)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る