第73話 まてりあるあにまる

「四宝堂‼」

 校庭に走って戻った小太郎。

 安心してください履いてますよ。

 牛の綱を引っ張る冬華、できれば話かけたくはないのだが、色々聞きたいことがありすぎた。

「なんです?」

「それは?」

「ビーフです」

(まさかの、すでに肉扱い?)

 暴れる牛を肉と見なす思い切りの良さ、冬華のなかでは、すでに暴れ牛は食材なのだ。

「ビーフって…食べるの?」

「食べます、というか売ります」

「屋台で?」

「屋台で‼」

「そういうことだ、小太郎」

 軽トラックの助手席から秋季が笑いながら手を振っている。

 ギツッ…バタッ…ウォンッ…

 慣れないマニュアル、癖のある軽トラックの運転に四苦八苦している春奈。

「コレは…乗りにくいですわ…なんかクラッチの感じに馴染めませんわ」

(あの笑みは助けてくれってことなんだろうか?)

 そして軽トラックの荷台で死体のように転がっているのは

「もちろん俺だ…ヘルプミーだ小太郎…」

 すでにゲロ塗れの夏男である。

「やっとの思いで連れてきましたのよ牛、暴れますでしょ~、車が揺れて揺れてそれはもう、私でなければ運べませんでしたわよ」

(すでに自信満々だな)

「ハハハ…牛が降りてからも上下左右に揺れまくったがな」

「俺がこうなったのは、むしろ牛を降ろしてから、わずか数分のことだぜ」

(牛が今、暴れてるのは運転のせいなのでは?)


「なんです、騒がしい‼ どうしてあなた達は夏休みくらい大人しくしてられないの‼ 先生ガッカリです‼」

 校舎の裏から日傘を差した立花先生がツカツカとやってくる。

 餌付けの途中だったのか、数人のゾンビが後を付いてきていた。


「大人しくするですー、先生に怒られるですー」

 冬華が必死に綱を引っ張り、なんとか木に縛り付けようと奮闘中である。

(凄ぇな…あの娘、あのちっさい身体で暴れ牛を引っ張るんだもんな)

 その姿、小太郎にドワーフを想像させるほどの力強さ。

(地球に送られた戦闘民族なんだろうか…)


「手伝うですー‼ 小太郎ー‼」

 呆気に取られたいた小太郎、冬華の声で我に返る。

「せーの‼」

 ブチッ…

 牛の綱が千切れて冬華と小太郎がひっくり返った。

 ハッ?

 尻もちをついた小太郎と牛の視線が結ばれ…

「ぎゃぁぁあぁー」

 牛は小太郎を追いかけてくる。


「ハハハ、小太郎の奴、大分、足が速くなったものだな」

「毎朝、ランニングしてましたから、その成果ですわね」

「んしょ…んしょ…」

 冬華は木に登って避難している。

「俺…夏休み、毎日吐いてる気がする…」

 夏男は小太郎を笑う余裕すらなかった。


「佐藤君‼ Tシャツを脱ぎなさい‼」


 小太郎が着ていたTシャツは赤かった。

 Tシャツに書かれた『Run for your life』の文字


「命を懸けて走れって…あの子…只者じゃないわ…」


 小太郎の引き寄せる力に恐れ戦く立花先生であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る