第72話 さまーびるだ~
トンテンカン…カンカンテン…
夏休みの校庭に金づちの音が響く。
雨ざらしになっていた屋台参号機の改修が行われているのだ。
海岸で沈黙している『零号機・改』タコ焼きから焼きそばへの路線変更と長距離移動による破損が酷く回収が困難になった。
『弐号機』は、たい焼き屋台として現在放浪中である。
『初号機』はスーパーの駐車場に置きっ放しである、マグマたこ焼きというゾンビを配下に従えられるという特殊な屋台であるがゆえ現在凍結中である。
そして…黒い屋台『参号機』が現在改修中なのである。
「四宝堂、コレなんの屋台になるの?」
改修担当の汗だくの小太郎が冬華に尋ねた。
小太郎宅に冬華が突然訪ねてきたのが2時間前。
ぴんぽよ~ん……ぴんぽよ~ん……ぴぴぴんぽよよよ~ん
壊れかけて少し間延びした呼び鈴の音で目覚めた小太郎。
(なんだ…誰だ?)
久しく呼び鈴など聞いていなかった小太郎、嫌な予感しかしなかった。
ガチャッ…
無言で玄関を開けると、無表情の冬華が立っていた。
「屋台つくるです」
「………」
無表情の圧に圧されるがまま校庭に連れてこられて…今DIY真っ最中なのだ。
「飲むです」
冬華が差し出したイチゴ牛乳を受け取る。
「ありがと…」
暑い夏、ぬるい牛乳
(こういうときは栄養ドリンクとかエナジードリンクとか、スポーツドリンクなどが好ましい)
喉が渇いていたので一気飲みした小太郎、30分後、ほんのり腹痛が訪れ、今はトイレで籠城中である。
(腐ってたのか?)
誰もいない校舎のトイレ、心なしかゾクッとする気配を感じる。
こういうときはゾンビでもいいから生き物の気配が欲しいものだ。
(生き物?)
「ゾンビだから生き物じゃないのか…ハハハ」
力なく笑う小太郎、この微妙な痛みと気持ち悪さ、トイレの個室で力なく笑うことしかできない、それが腹を壊すということなのだ。
寄せては返す波のように、終わったと思いきや、またやってくる腹痛、それはラビリンス。
迷宮には牛頭の怪物ミノタウロスが彷徨うと聞くが、小太郎の腹ではミノタウロスが気まぐれに暴れているのだ。
ぶもーーーー‼
ビクッ‼
突然の鳴き声が静まり返る校舎に響く。
「牛の鳴き声…まさかミノタウロス?」
バカなと思いながらも、ゾンビがタクシードライバーをする時代なのだ、考えてみれば半人半獣のモンスターがいたって不思議ではないのかもしれない。
ぶもーーーー‼
(校庭のほうか?)
個室から飛び出す小太郎。
ミノタウロスではなかった。
冬華が牛を引っ張っていただけであった。
(何が、おっぱじまるんだろう…)
パンツをおろしたままでトイレの窓から校庭を眺める小太郎。
視線の先は少女に引っ張られる牛。
(カオスだ…)
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