第71話 おれんじさんせっと

「結局…菓子パンとはな…」

 秋季があんパンの袋を開けた。

「夕日が沈みますわ…」

 結局、春奈と秋季がコンビニで買ってきた菓子パンを食べながら皆で横に並んで夕日を見ている。

 バックには傾いた屋台『零号機・改』

「一ノ瀬君、先生…メロンパンにはオレンジジュースって決めてるの、ほら、甘さが酸味を引きずりだして、口の中で喧嘩する感じが好きなの」

「すいません、果汁1%未満しかなかったのです」

「果汁1%未満って、もう入ってないってことよ、覚えておきなさい、アルコール1%未満なら飲酒にならないんだから0と同じって刑法が断言しているのよ」

「先生、りんご100%ならございますわ」

「ダメよ三宮寺さん、リンゴはメロンパンと仲良しなの、より甘くなってしまうのよ」

「リンゴとミカン…果物界の冷戦ということか、今の俺にはソレすら空しく感じるがね」

 吐くだけ吐いて気が付いた。結局ミネラルウォーターが一番美味いという結論に達した夏男が立ち上がり夕日を背に振り返った顔、ほんの少し頬がやつれている。

 夕日を後光のように纏い、その姿は神々しさを醸し出す。

「ジーザス…」

 小太郎が呟く。

「残り物でよければ食べるです」

 夏男の口に、あの焼きそばが詰め込まれる。

 ゲボロロロ…

「夏男は所詮、夏男…ということだよ小太郎」

 秋季が小太郎に焼きそばパンを投げる。

 パシッと受け取った小太郎。

「ですね…一瞬、メシアを見たような気がしました…」

「錯覚ですわ…アレは吐き散らかすだけの害虫ですわ」

 焼きそばパンを一口食べて思った。

(焼きそば美味い…)

「今、先生と二階堂君は酸味と戦っているの…先生はミカン、彼は胃酸とね」

 なんか真顔で、まとめに入った立花先生だったが、僕には何を言っているのかサッパリ解りませんでした。


 暗くなった空、満点の星空、荒い運転…

「ヒーヒーフー…ヒーヒーフー…」

 後部シートで窓を開けて深い呼吸を繰り返す夏男。


「ダメよ二階堂君‼ ソレ出す呼吸だから‼ 産まれちゃうヤツだから‼」


 ゴボハハハ…

「胃からナニカ産まれたですか?」


「なんだか運転に自信がつきましたわ」

 片道2時間の実戦で、思いもよらぬ自信をつけてしまった春奈。

 なんで身体がこんなに軋む様に痛いのか?

 車とは、こんなに身体を酷使しなければ乗れない代物だったのか?

(阿頼耶識システム搭載型なのか?)


「また、ドライブに行きましょうね」

 ニッコリと笑う春奈先輩の笑顔にタナトスを見た気がしました。


 だから無言でヘラヘラと笑う事しかできなかった僕を責めないでください。

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