第70話 ゆーあ~くぃんし~

「さっ、パラソル立てるわよ」

 立花先生、ビーチの真ん中にズシャッとパラソルを突き刺す。

(手慣れてるな~)

 チョイチョイッ

 立花先生が指で小太郎に指示する。

 小太郎が担がされたサマーベッド(ビニール製)をココに設置せよと指さしている。

 ギコッ…

 安い金具の音と共にベッドが広がる。

 ギチッ

 軋むビニールに立花先生が横たわる。

 白いビキニ、派手なパレオ

(あっ…ココで初めてサングラスなんだ)

 なんだろう…いい女感は出しているんだけど、なぜか声を掛けにくい。

 その一区画だけ、昭和にあったのだと立花先生の熱い授業で習ったバブルという時代を再現しているようだ。

「屋台が…砂にハマって…動かないです…」

 無謀にも砂浜に屋台『零号機・改』を運びこもうとして失敗した様子の冬華。

(何を焼くつもりだったんだろう)

 興味本位で冬華が持ってきたクーラーボックスを開ける小太郎。

(イカ…タコ…ワカメ…刺身盛り合わせ?)

 スーパーの袋に大量の焼きそば麺。

「シーフード焼きそばでいいのか?」

 焼きそばと刺身の組み合わせが想像を超えてきた小太郎。

(刺身を油でジューッとしたら…どうなるんだ? 焼き魚になるのか?)

「ココでやるです」

 斜めに傾いた屋台『零号機・改』運搬に問題があったことは否めない、2時間、春奈の運転技術によるダメージの蓄積、完全に稼働限界を迎えていた。

 斜めになっているのは砂にハマっているからだけではないのだ。

 傾いた屋台に鉄板を設置する冬華。

「モコズキッチン‼」

 ドボッ…ゴボボボ

 鉄板に注がれるというか、溢れだすオリーブオイルにバシャッと麺を叩き込む、オリーブの海で泳ぐ焼きそばの麺、ぶつ切りのシーフードが加わり、刺身が投入される。

「見ているだけで胸がいっぱいになるわね」

「えぇ、見ているだけで充分ですわ」

「心なしか顔が油っぽくなったような気がするな…」

「出来たです」

(えっ?)

 冬華が小太郎の前にギットギトのシーフード焼きそばを差し出した。

(まさかの試食とは…)

「仕上げです」

 生きたイカをギュッと握ってフレッシュな墨を追加してきた冬華。

 生臭さと油が絶妙に不愉快な逸品が今、目の前に…

「なんだろう…ゾンビを、良く表現できている視覚的にも味覚的にも…」


 車酔いから回復しない夏男と並んで草むらで吐き戻した小太郎。

 クリアグリーンの油に黒い墨が弾かれて、生暖かい生麺が浸り火の通りがまったく不十分な魚介類が不快に絡む、そんな料理があるのでしょうか?


「胃じゃないんだ…心が受け付けないんだ…」


 人生が罰ゲーム、嘔吐の中そんな言葉が頭を過った小太郎であった。

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