第69話 ぼとるしっぷ

「海水浴だ‼」

 夏男が生き生きとしてきた。

「夏男だけに夏が好きなのか?夏男よ」

「夏が好きなんじゃねぇ‼ 女の薄着が好きなんだ‼」

 夏である、高校生活4回目の夏休みも間近に迫って夏男のテンションが上がっている。

「梅雨から夏にかけてはゾンビにもツライ季節よね~、見なさいゾンビの動きが鈍いわ」

 立花先生、暑い外に行くのが嫌で生徒会室の窓から下のゾンビにエサを撒いている。

「クーラーの無い場所へ行く気にもなりませんわ」

 最近、車の免許を取得した春奈、当然のように自家用車で登校してくる。

「不思議だったんですが…春奈先輩は、どうやって免許を取得したんでしょう?」

「一応、通ったようだな自動車学校に」

「ちゃんと免許もありましてよ」

「決まりだ‼ ドライブを兼ねて海水浴だ‼」


 ………

「先生、海水浴とか微妙な年齢よ」

 半ば強引に海水浴を決行することとなった当日。

 そうは言いつつも誰よりも海水浴を満喫する気満々の立花先生。

 つばの広い白いハットに大きなサングラスを乗せている。

(なぜ、あの世代はサングラスの機能を無視するんだろう…そのくせデカいサングラスを所持しているんだよな~)

 ジェネレーションギャップを感じながらも、ソレを相手に悟られないように振る舞わなければならない、もう車内の緊張感たるやもう…

 ミニバンの運転に全集中の春奈、人の事など気にかける余裕などない。

 人生において1分たりとも人の事など気にしたことが無い冬華、気にしているのは出張用に改造し、ミニバンに連結した屋台『零号機・改』ガタガタ揺れる屋台を後部シートから不安そうに見ている。

(片輪浮いたです‼)

「先生、なぜ車内で帽子を?」

 触れたくない部分を的確に突いてくる秋季の言動にハラハラする小太郎。

「雰囲気って大事にしたいの」

「むほほ…ぐふほっ…」

 もう、なんか色々なナニカが穴という穴から漏れ出しそうな夏男、若干、口から漏れているのか変な音を発する。


 2時間後…

「おぇぇぇ…」

 春奈の運転技術が招いた悲劇が夏男を襲った、車酔いからの嘔吐である。

「三半規管が弱いのですわ…きっと」

「夏男の首から上にいいところが見当たらないな…三半規管までポンコツとはな」

 今吐いたらアレと同じ扱いになる…青白い顔の小太郎。

(吐いちゃダメだ…吐いちゃダメだ…吐いちゃダメだ‼)

 緊張と気遣いも相まって、一口だけ草むらで吐きました。


 波打ち際で海藻に絡まるゾンビがチラホラと漂う海岸。

「まぁ…巨大なナマコのようですわ」


 海洋生物とゾンビの組み合わせが、これほどまでのビジュアルショックだとは…上がってきた胃液をゴクリと飲み込む小太郎であった。

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