第65話 すい~つとらっぷ

「市長は辞めるよ、身の丈に合ってないと解ったから…」

「そうですか…僕は正直、どうでもいいんですけど…当面の目的は果たしたわけだし」

「当面の目的………ハッ‼ 俺達は勝ったんだ‼」

「まぁ…そうなりますね」

「犬も歩けば棒に当たる‼ 棚から牡丹餅‼ アイム、ウィナー‼」

 夏男が大喜びして市長室を跳ねまわる。

(テンションを抑えられない子供のようだ)

「よし‼ 市長、オマエ、これから付き合えよ」

(距離感が凄い人なんだよな~、インチキでも市長だし、年上だし)

「どこへ行くんだい?」

「スーパーだ‼」


 ………

「げっ‼」

 思わず下品な声を上げてしまった立花先生。

 夏男がノシノシと向こうから歩いてくる。

「ふむ…3人いるな」

「困りましたわ…今から入院したい気分ですわ」

「チョコたい焼き…なんか噛み合わないです…」

「ヘロ~‼ エヴィワン…見つけてきましたYO‼」

 膝から崩れ落ちる春奈。

 キッと小太郎を睨む立花先生。

「すいません…ケガの功名…いや、行き当たりばったりというか…なんかすいませんでした‼」

 深々と頭を下げる小太郎。

「フハハハ‼ 明日からの1週間をピンクウィークとして、我が国の新しい大型連休とすることとしよう‼」

「……で? 私は何をしに?」

 田中市長はポカーンとしている。

「もう帰ってよーし‼」

「えーっ、そういうわけにもいかないでしょ、あっ…皆さん紹介します、田中市長です」

「初めまして…田中です」


 ………

「なるほど…で市長になったまではいいが、途方に暮れていたと…」

 秋季が綺麗かつ簡潔に締めた。

「なるほど、底辺しか経験してこなかったから、長が付く職に憧れたというわけね」

 立花先生は辛辣にまとめた。

「ゾンビ社会の市長に立候補とは、なかなかできることではありませんわよ、賢ければ、まず考えつきませんことですわ」

 春奈は褒めているようで貶してきた。

「チョコたい焼き余ってます」

「私…市長を辞めます」

 特に辞任を止めることは誰もしなかったそうです。


「私…一からやりなおそうと思います、いつか市長に選ばれるくらいの男になりたいと思います」

「田中さん、僕は頑張ってくださいとしか言えませんけど…校長になるという選択肢もありますよ」

「ダメだ‼ そんな安易に人の上に立てるなんて思うなよ‼」

 夏男が全力で止めに入ってきた。

 さっきまでピンクウィークではしゃいでたのに。

「田中、オマエは旅に出ろ、世界を知って、大きくなって帰ってこい‼ 俺達の上に立つ男になってな‼」

 ガラガラ…

 冬華がチョコたい焼きの屋台を田中に渡した。

「コレは、餞別です‼」


 田中は屋台を引きながら街を出ていった…。

(失敗したから押し付けたな冬華)

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