第64話 はいすぺっく

「何だとは何だ、何だと思ってるんだこの野郎ー‼」

「それを聞いたのだよ…君たちは何でココに来たのか…とね」

 ゆっくりと椅子から立ち上がったスーツの男。

(あっ…この人だ…)

 ドンッ‼

 後ろでうるさい夏男を蹴り飛ばした小太郎。

「あの…ノックもせずにすいません…アナタは…」

「構わんよ…こんな世界でノックなど無用だものな」

「市長さんですか?」

「あぁ…そうだよ…私は市長の田中 次郎だ」

「田中…市長…」

「知らないだろ?」

「あっ…いえ…すいません」

「知らなくて当たり前だよ、私が勝手に名乗っているだけかもしれないしね」

「どういう?」

「うん…かけたまえ」

 田中市長は、来客用のソファに座るよう促した。


 秘書ゾンビが空の湯飲みを置いて行った。

「あの…」

「うん、キミ達も、何らかの能力は持っているんだろ?」

「えぇ…、まぁ…」

「私もね、その能力で市長になったんだよ」

「えっ…じゃあ…前の市長は?」

「引退したよ…ろくでなしだったし、私が良い街作りをなんて思ったからかな? 私の能力はリーダーシップ、どの組織においても『長』と付く役職に好きなように就くことができるというものだ」

「長ですか?」

「そう…長だ、だから町長でも課長でも部長でも社長もなれるが…主任にはなれない…知事にもなれない議長にはなれるが大臣にはなれない、そういう能力なのだ」

「……それで市長に?」

「あぁ…なってみたけど…やることがないので、次はどうしようかと考えているんだよ」

「そうですか…それで、今までは何を?」

「こうなる前かい? 簡単に言えば…派遣社員で段ボールを運んでいたよ」

「……」

「その前は…出前を運んでいたよ…よく解らないけど自営業だそうだ」

「……」

「その前は」

「もういいです」

「貴様が、この怠け者の巣窟を生み出した張本人かー‼」

 ダメージから回復した夏男が叫ぶ。

「いや…あの感じは昔から…ゾンビになっても変わらないよね」

「あの~、街で何をされてたんでしょうか? 僕、一度お会いしてるんですけど」

「あぁ…覚えてるよ、タコ焼きのね…、うん、アレだよ…自分探しというか…何をしていいか解らないというか…ただただ、街を歩けば何か見つかるかと思って…」

「そんなことで、何か見つかるわけねぇだろ‼ ダラダラ生きてやがって…ゾンビ以下だ貴様はー‼」

(アンタに言われちゃおしまいだよ…)

「そうかもしれない…私は…ただただ…偉くなれば何か変えられると思っていただけなんだ…努力もしないでね…」

 田中市長はスーッと涙を流した。

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