第59話 ぶらっくめん

「ほう…それで、小太郎は、その男の考えていたら眠れなかったと…」

「佐藤君、それは恋ね」

「まぁ、私は同性愛に偏見はありませんわよ」

「俺は、女が沢山、生きていてほしいと願うだけだ…男なんざ興味がねぇ」

「タコが…減ってます…」

 反応の薄さに愕然とする小太郎。

「なんで、そんな反応なんですか?」

「うむ、知りたいか?小太郎、貴様の恋に興味が無いからだ」

「恋じゃないです‼」

「片思いは恋よ佐藤君」

「まぁ…ときめく季節ですわね」

「ハハハ、春は恋の季節だからな」

「もう初夏ですよ」

「小太郎、その男と幸せにな、そして次に見つけるときは女な、頼むぜホント」

「タコ…オスメスの区別がつかないです…増えないかも…オスばっかりだったら…増えないです」

「それはメスだけでも同じでしょ…冬華」


「探しましょう」

「えぇ~」

 小太郎の提案に皆の反応は意外なものだった。

「逆になんでなんでしょう?」

「ここは学校よ佐藤君、部外者がホイホイ出入りするのは防犯上どうかと思うわ」

「うむ、面倒くさい」

「そうですわね、特に生活に支障は出ませんものね」

「男なんか探す気にもなれない」

「人類ヒト科よりタコのオス…探します」

(水槽にはメスが多いと判断してるんだな)

「探しましょう」

「くどいぞ‼ 小太郎‼ 俺は男なんか増やしたくねぇんだ‼」

「アナタには期待してません」

 ガーンッ…

 まぁまぁ強烈な一言で柔いメンタルが凹んだ夏男。

 水槽のタコを無言で、ただただ見つめている。

「佐藤君、ひとつ聞きたいの」

「30前後で割と顔は良かったです」

「……協力するわ」

「ヒマだし…付き合いますわ…」

「致し方ない…その男の能力に興味もあるしな…あんまりないけど」

「冬華…2号店で、また来るのを待ってます」

「……そうか…意外に、その可能性の方が高いのかもしれない」

 ハッと気づいた小太郎。


「じゃあ、2号店で待っていればいいんですのね」

 ゾロゾロと生徒会室を出ていく面々。

 誰もいなくなった生徒会室で、独り取り残された夏男は、足の無いタコが足のあるタコに絡みつかれている様子を眺めていた。

(誰も声を掛けてくれなかった…)

「あれ? 涙でタコが見えねぇよ…」

 水槽では炭吐き合戦真っ最中、涙で無くても見えやしなかった。


「タコ忘れたです」

 ガラッと扉が開いて、冬華が戻ってきた。

「冬ちゃん…」

 ジャボッ…

 黒い水の中に手を突っ込んでタコの頭を掴んで夏男にビシャッと渡した。

「持ってきて」

 パァーッと笑顔になった夏男。

「はい」


 タコを抱きしめながら、冬華の後を付いていく。

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